コミュニケーション障害に対する言語聴覚士の訓練は、病院で保険適用を受けて実施することができます。医療保険では、脳血管疾患等リハビリテーション料として1単位20分あたり245点(施設基準I)で算定され、3割負担の場合は735円、1割負担の場合は245円の自己負担で訓練を受けられます。言語聴覚士は失語症、構音障害、高次脳機能障害、嚥下障害、聴覚障害、音声障害、言語発達遅滞、吃音など、さまざまなコミュニケーション障害に対応する国家資格を持つ専門職であり、日本言語聴覚士協会の病院・施設検索サービスや各都道府県の言語聴覚士会を通じて、お住まいの地域で言語聴覚士のいる病院を探すことができます。
本記事では、コミュニケーション障害の種類や症状から、言語聴覚士による具体的な訓練内容、保険適用の詳しい仕組み、病院の探し方と受診方法まで、リハビリテーションを検討している方やそのご家族に役立つ情報を網羅的に解説します。

コミュニケーション障害とは何か
コミュニケーション障害とは、言語、会話、コミュニケーションに困難を生じる疾患のことです。アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5においては、言葉を扱うことに対して障害が発生する5つの疾患が「コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群」としてまとめられています。2022年に発表されたDSM-5-TRでは、診断名が「社会的コミュニケーション症」に改められました。コミュニケーション障害は、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)と同じ「神経発達症群」の中に位置づけられており、日常生活や社会生活に大きな影響を与えるため、適切な治療やリハビリテーションが重要となっています。
コミュニケーション障害の5つの種類
コミュニケーション障害には、大きく分けて5つの種類があります。
言語障害(言語の習得の障害)は、語彙の獲得、文法規則の理解、情報の伝達などが困難な状態を指します。話したいことをうまくまとめることができない、相手の話を理解するのが難しいといった症状が見られます。
語音障害(話し言葉の障害)は、言葉を発声・発音することが困難な状態です。話す速度やリズムに問題がある場合も含まれ、特定の音が正しく発音できない、話し方が不明瞭になるといった症状があります。
小児期発症流暢障害(吃音)は、話し始めの言葉に詰まったり、単語を伸ばす、言葉がすらすら出てこないなどの症状が特徴です。一般的に「どもり」とも呼ばれることがありますが、医学的には「吃音」という用語が使われています。
社会的(語用論的)コミュニケーション障害は、言語を扱う基礎的能力は十分にあるにもかかわらず、社会的状況に応じたコミュニケーションに困難さが生じる状態です。場の空気を読むことが難しい、冗談や比喩表現を理解しにくいといった特徴があります。
特定不能のコミュニケーション障害は、症状があるものの、どのコミュニケーション障害の診断基準も満たさない状態を指します。
コミュニケーション障害の主な症状
コミュニケーション障害の症状は多岐にわたります。話したいことをうまくまとめることができない、話す内容は浮かんでいてもうまく発音できない、話し始めにつっかえてしまうことがある、状況に応じた振る舞いが苦手、ユーモアや例え話を理解しにくい、「結構です」のようなどちらともとれる表現を理解しにくい、相手の表情や態度から気持ちを読み取ることが難しいなどの症状が代表的です。コミュニケーション障害は多くの場合、幼少期に発症するとされていますが、社会人になってから症状に気付く人もいます。
コミュニケーション障害の原因と「コミュ障」との違い
コミュニケーション障害の原因は、現状はっきりとわかっていないと言われています。しかし、社会的コミュニケーション症には、家族に発達障害などのコミュニケーション障害のある方がいる場合も多いという報告もあります。原因は多岐にわたりますが、遺伝的要因、発達過程での問題、脳の損傷、聴覚障害などが挙げられます。
ここで重要なのは、医学的なコミュニケーション障害と日常会話で使われる「コミュ障」を明確に区別することです。コミュニケーション障害は医学的な診断に基づく疾患の名称であり、専門的な治療やリハビリテーションの対象となります。対して「コミュ障」は、病気などではなく性格上の悩みといったような、比較的軽い意味合いで用いられることが一般的です。
言語聴覚士とはどのような専門職か
言語聴覚士(ST:Speech-Language-Hearing Therapist)は、音声機能、言語機能または聴覚に障害のある方に対して、その機能の維持向上を図るため、言語訓練その他の訓練、これに必要な検査及び助言、指導その他の援助を行う専門職です。言語聴覚士は1997年に国家資格として制定され、2023年3月時点で有資格者数は4万人近くとなっています。
言語聴覚士は、コミュニケーション障害や摂食・嚥下機能の低下に悩む患者さんのリハビリテーションを担当します。聴覚障害、失語症、構音障害など、言葉によるコミュニケーションが困難となってしまった人たちの状況を改善・軽減するためのリハビリ専門職として、医療現場で重要な役割を果たしています。
言語聴覚士が活躍する場所
日本言語聴覚士協会に所属している言語聴覚士の約7割は病院や診療所といった医療機関に就職しています。病院にもさまざまな種類があり、重病患者や緊急性の高い患者を担当する急性期病院から、リハビリテーションを主に担当する回復期病院まで、その幅は広いです。
言語聴覚士が活躍する診療科としては、リハビリテーション科や形成外科、耳鼻咽喉科などが挙げられます。また、小児科で発達障害のある児童の発語の援助や療育などを担当することもあります。
医療機関以外では、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、訪問リハビリテーション事業所、保健センター、療育支援センター、放課後等デイサービスなどでも言語聴覚士が活躍しています。
言語聴覚士が対象とする障害の種類
言語聴覚士が対象とする障害は幅広く、失語症は脳血管障害などによって大脳半球にある言語中枢が損傷することで起こる言語障害であり、言葉を聞いて理解すること、話すこと、文字を読んで理解すること、書くことといった言語機能のすべてが障害されます。
構音障害は発音に必要な器官(舌、唇、声帯など)の動きに制限が生じて、うまく話すことができなくなる障害で、呂律が回りにくい、発声・発語がはっきりしないなどの症状があります。
高次脳機能障害は脳損傷に起因する認知障害全般を指し、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが含まれます。
嚥下障害は食べ物や水分がうまく飲みこめなくなる障害で、誤嚥(食べ物が気管に入ること)のリスクがあり、肺炎などの原因となることがあります。
聴覚障害は難聴や聴覚処理障害など、聞こえに関する障害で、補聴器や人工内耳の調整も言語聴覚士が担当します。
音声障害は声帯や発声に関する障害で、声がかすれる、声が出にくいなどの症状があります。
言語発達遅滞は子どもの言語発達が年齢相応でない状態で、知的障害、自閉症、ADHDなどに伴って見られることがあります。
吃音は話し始めに詰まる、言葉を繰り返す、引き伸ばすなどの症状がある流暢性の障害です。
言語聴覚士による訓練の具体的な内容
言語聴覚士による訓練は、すぐに実施されるわけではなく、訓練を実施する前に「評価」を行うのが一般的です。まず、患者さんの状態を大まかに把握するための初回評価(スクリーニングテスト)を行い、次にスクリーニングの結果を踏まえて、より詳細な評価を行います。失語症であれば標準失語症検査(SLTA)、構音障害であれば構音検査など、症状に応じた評価方法が用いられます。そして評価結果に基づいて、患者さん一人ひとりに合った目標と訓練内容を設定し、計画的に訓練を進めていきます。
失語症に対するリハビリ方法
失語症の患者さんに対しては、絵カードを使った単語の理解訓練や、日常会話の練習などを行います。患者さんの状態に合わせて、段階的に難易度を上げていくことで、着実に言葉を取り戻すことを目指します。
具体的な訓練方法としては、絵や文字カードを用いた訓練があり、言語の「理解・表出」を中心にアプローチします。絵または文字カードを複数枚机に置き、言語聴覚士が読み上げたカードと合うものを選んでもらいます。また、言葉を思い出す訓練(呼称訓練)では絵を見て名前を言う練習をします。自分の発語を聞きなおす訓練では、自分が発した言葉を録音して聞き直し、正しい発音との違いを認識します。さらに、コミュニケーションボード等を用いた代償手段の獲得では、言葉だけでなく、絵や記号を使ってコミュニケーションする方法を習得します。
構音障害に対するリハビリ方法
構音訓練は、発音の明瞭さを向上させ、より聞き取りやすい話し方を習得するためのリハビリテーションです。
構音障害の患者さんは、疾患による麻痺や筋力低下だけでなく、話しにくさから人と話す機会が減少することで、舌や口の筋肉がより硬くなったり、筋力が低下したりする傾向があります。そのため、口や舌を動かす体操を行います。口や舌の体操を始める前には、深呼吸や首・肩のストレッチを行い、発声時に使用する呼吸筋をリラックスさせ、血流を促進します。
また、はっきりと話せるようにするための音読課題や、ゆっくりと話してもらう、言いづらい言葉を言い換えてもらうなど、聞き手に伝わりやすい話し方の習得を目指す訓練も行われます。発語以外の方法で意思疎通がしやすくなる補助手段として、50音表を用いたやりとりの練習を提案することもあります。
高次脳機能障害に対するリハビリ方法
高次脳機能障害とは、脳梗塞やくも膜下出血といった脳血管障害や、事故などによる脳外傷、心肺停止による低酸素脳症などで脳がダメージを受けたことにより、注意力・記憶力・言語・感情のコントロール等がうまく働かなくなる認知機能の障害です。外見からは分かりづらく「見えない障害」とも言われています。
高次脳機能障害者の訓練には、言語聴覚士だけでなく、作業療法士、心理専門職、看護師など多くの専門職がかかわっています。記憶障害へのリハビリでは、何回もメモを取るようにして、常にメモを見る習慣をつけるなどの訓練をします。情報を外部に貯蔵する方法と、内部に貯蔵された情報にアクセスするための手がかり法があります。注意障害へのリハビリでは、注意力や集中力を高めるための訓練を行います。注意はすべての認知機能の基盤であり、広く社会生活を営むためのあらゆる行動に含まれています。
モデル事業の報告では、訓練を受けた障害者で障害尺度に改善のみられた人の74%が6か月で、97%は1年でその成果が得られています。
嚥下障害に対するリハビリ方法
嚥下障害とは、病気や加齢などの影響によって、食べ物や水分がうまく飲みこめなくなる障害です。うまく食べ物を噛めない、口からこぼれてしまう、飲み込むまでに時間がかかる、飲み込めてもむせてしまう、食後に痰が多くなるなどの症状が出やすいです。
言語聴覚士は、言語聴覚士法に基づき、診療の補助として、医師または歯科医師の指示の下に嚥下訓練を行います。嚥下訓練には、食べ物を使用せずに行う間接訓練(基礎訓練)があり、口や舌の運動、発声、言語の練習、嚥下体操などを行います。食べる前に、食べるために必要な筋肉を動かしたり、刺激を加えたりして、口腔周辺の運動や感覚機能を促します。
直接訓練では食べ物を使用して行い、ゼリーやトロミ水などから始め、主に言語聴覚士とともに、飲み込みの状態を確認しながら進めていきます。摂食訓練では実際の食事を安全に食べる練習を行います。
嚥下障害の検査方法としては、医師による「嚥下内視鏡検査」や「嚥下造影検査」があります。嚥下内視鏡検査は、鼻咽腔喉頭ファイバースコープを用いて飲み込み時の諸器官や動きを観察する方法です。嚥下造影検査は、X線透視下で造影剤を飲んでもらい、口腔、咽頭、食道の動きを評価する方法です。
聴覚障害に対するリハビリ方法
難聴は原因部位によって、外耳や中耳の音を伝えるところの問題で生じる「伝音難聴」と、内耳から脳の聴覚中枢までの問題で生じる「感音難聴」に分けられます。
補聴器を合わせる際は、ただ着ければ聞こえるのではなく「聞こえのリハビリテーション」として考える必要があります。難聴の方は脳に達する音の刺激が減っているため、静かな環境に慣れた「難聴の脳」になっています。この脳を変化させるのが補聴器による聴覚リハビリテーションです。
人工内耳は耳の損傷した箇所を迂回して聴神経を刺激することで、音の大きさと明瞭度を向上させることができます。人工内耳が十分に効果を発揮するには、精密な術前評価と、術後の機械の調整、言語のリハビリテーションが必要です。人工内耳を専門とする医師と言語聴覚士のチームによる一人一人の病態に応じた個別のリハビリテーションプログラムが提供されます。
音声障害に対するリハビリ方法
音声障害は、声帯や発声に関する障害で、声がかすれる、声が出にくいなどの症状があります。音声治療は言語聴覚士が行い、「声の安静」「声の衛生指導」「音声訓練」の3種類があります。音声訓練には「症状を対処する治療」と「呼吸・発声・共鳴を調整する包括的な治療」があります。
包括的訓練では、呼吸(腹式呼吸で気流発声)、発声(喉頭負荷を軽減)、共鳴(鼻腔・咽頭共鳴を促進)のバランスを整え、内喉頭筋の緊張を調整することで、声帯振動を正常化することを目的としています。リハビリでは呼吸を意識しながら「アー」と声を出したり、構音訓練と組み合わせてパタカラ体操や文章の音読、歌唱などを行います。良い声を出すためには呼吸を意識しながら喉ではなく腹部を使って声を出すことが重要です。
音声障害を専門とする言語聴覚士は、日本では全体の1%にも満たないため、しっかりとした音声外来ができるところは限られています。
小児の言語発達遅滞・発達障害に対するリハビリ方法
言語発達遅滞とは、言葉を含めて年齢よりも発達が遅い状態であり、知的障害、自閉症、ADHD、学習障害、ダウン症や染色体異常などによってコミュニケーションがうまくできないことを指します。幼児期の場合、1歳以上定型発達から遅れると判断される際に言語発達遅延に当てはまるケースが多いです。
子どもの言語療法は、言葉だけでなく、運動やコミュニケーションなど、発達全体に働きかけるようなアプローチが行われます。子どもの発達段階に合わせて、おもちゃや絵カード、プリントなどを使用することもあります。発達障がい児に対する言語聴覚士のアプローチは、個々の子供の特性とニーズに基づいて組み合わせされ、プレイセラピー、音声訓練、コミュニケーションスキルの向上など、多岐にわたる方法が取り入れられます。絵カードを用いた言葉の認識訓練や、役割演技を通した会話のルールの学びなどは代表的です。
言語聴覚士による発達支援には、言語能力の向上(語彙や文法の理解が進み日常生活でのコミュニケーションが改善)、社会的スキルの改善(友達との関係構築や協調性の向上)、行動のコントロール(衝動的な行動や多動性の軽減)などの効果があります。
吃音に対するリハビリ方法
吃音とは、話す際に、なめらかに言葉が出てこない状態を言います。話す際に言葉に詰まったり、一部の音を繰り返したり、引き伸ばしたりするなどの症状があります。
吃音には「発達性吃音」と「獲得性吃音」があります。一般的に「吃音」というと「発達性吃音」を指すことが多く、「獲得性吃音」は脳血管障害の後遺症によるものや心因性の吃音を指します。小児の吃音の有病率は人口の5%と言われており、男児にやや多い傾向があります。吃音のある子どもの約5割は自然回復するといわれていますが、大人になるまで吃音が残る場合もあります。成人の有病率は人口の1%と言われています。
青年期以降の吃音者に対する訓練法には、直接話し方にアプローチする直接法と、直接的には発話への働きかけを行わない間接法があります。直接法の主要なものとしては、吃音が出にくいコントロールされた話し方を習得する流暢性形成法や、楽に吃ることを目標とする吃音緩和法があります。小児の場合は、吃音の自然治癒の可能性を最大限に考慮した環境下で、のびのびと過ごしてもらいます。話し方への指摘や発話の強要は逆効果です。
言語聴覚士の訓練における保険適用の仕組み
日本では、言語聴覚療法は医療保険の適用対象となっています。医療保険の場合、厚生労働大臣が定める特定の疾患が対象であり、医師の指示により算定されます。
2024年度診療報酬改定後の保険点数
2024年度診療報酬改定後の保険点数は以下の通りです。
| 区分 | 施設基準(I) | 施設基準(II) | 施設基準(III) |
|---|---|---|---|
| 脳血管疾患等リハビリテーション料(一般) | 245点 | 200点 | 100点 |
| 脳血管疾患等リハビリテーション料(要介護者) | 147点 | 120点 | 60点 |
1点は10円として計算されるため、例えば施設基準(I)で1単位(20分)の訓練を受けた場合、2,450円となります。自己負担割合が3割の方は735円、1割の方は245円の負担となります。
訪問リハビリテーションの費用
在宅の患者に対する訪問リハビリテーションは、2004年4月から医療保険適用となりました。在宅訪問リハビリテーション指導管理料として、医師の指示により算定され、1回20分以上、週3回を限度とします。40分実施した場合の料金は6,000円であり、患者の自己負担額は、自己負担1割(75歳以上)の場合は600円、自己負担3割の場合は1,800円となります。
算定日数の上限と継続の条件
脳血管疾患等リハビリテーション料は、発症、手術もしくは急性増悪または最初に診断された日から180日を限度として所定点数を算定します。ただし、治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合には、180日を超えて所定点数を算定することができます。
介護保険での言語聴覚療法
介護保険の場合、訪問リハビリテーション費として、医師の指示により算定されます。40分実施した場合の基本料金は6,140円であり、患者の自己負担額(1割負担)は614円となります。ただし、介護保険のリハビリと病院のリハビリは併用できないので注意が必要です。
高額療養費制度の活用
入院中のリハビリは、原則として医療保険が適用されます。1日2〜3時間のリハビリが保険内で提供されることが一般的です。高額療養費制度を利用すれば、医療費の自己負担額が一定の金額を超えた場合、あとから払い戻しを受けられます。
自費リハビリという選択肢
医療保険では180日という算定日数の上限があるため、それを超えるリハビリを希望する場合は、自費リハビリという選択肢があります。自費リハビリは保険適用外のサービスであるため、利用回数や期限の制限がありません。ただし、医療保険では数百円から数千円で済むリハビリが、自費リハビリでは1時間あたり1万円から1万5千円程度かかります。
言語聴覚士単独では保険請求ができないため、単独で独立開業する場合には完全自費、すなわち公的医療保険適用外の施設を立ち上げることになります。
2024年度診療報酬改定のポイント
2024年度は診療報酬と介護報酬の改定が重なるダブル改定のタイミングでした。リハビリテーション領域は急性期から在宅期にいたるまでの一貫した支援が重視されています。
急性期入院患者の日常生活動作(ADL)低下(廃用症候群)を防ぐため、2024年度改定で「リハビリ・栄養・口腔連携体制加算(1日120点)」が新設されました。また、医療と介護のリハビリ計画の引き継ぎ(退院時カンファレンス)がより強化されており、在宅や施設移行後も途切れなくリハビリが継続される体制が整いつつあります。
言語聴覚士のいる病院の探し方と受診方法
言語聴覚士のいる病院を探すには、いくつかの方法があります。
病院・施設検索サービスの活用
日本言語聴覚士協会の病院・施設検索サービスでは、全国の言語聴覚士がいる施設を検索できます。地域や対象疾患などで絞り込んで検索することが可能です。
各都道府県の言語聴覚士会でも、県内の施設一覧を公開している場合があります。例えば神奈川県言語聴覚士会のように、小児言語・認知、成人言語・認知、摂食嚥下など分野別に施設情報を提供しているところもあります。
かかりつけ医への相談も一つの方法です。まず、かかりつけ医に相談し、言語聴覚士のいる病院を紹介してもらうことで、スムーズに受診につなげることができます。
外来受診の流れ
一般的な外来受診の流れとしては、まず、耳鼻咽喉科やリハビリテーション科などの診療科を受診します。次に、医師が患者さんの状態を診察し、言語聴覚療法が必要かどうか判断します。そして、医師より言語聴覚療法の指示が出た方に、個別や集団で言語聴覚療法を実施します。
なお、予約なしでの診療はできない施設もあります。必ず事前に予約が必要かどうか確認してください。他の病院で診療を受けていた方は、専門医の紹介状を持参することが推奨されます。
言語聴覚療法の対象となる症状
言語聴覚療法の対象には、脳損傷等による聞く・話す・読む・書く・計算の障害(失語症)、記憶や注意等の認知機能の障害(高次脳機能障害)、発声・発音に必要な器官の動きに制限が生じてうまく話すことができなくなる障害(構音障害)、発音がはっきりしない・特定の音が言えない子ども(主に就学前の幼児)、脳血管障害の後遺症で呂律が回りにくくなった成人、吃音、声がかすれる・声が出にくい(音声障害)、飲み込みが難しい(嚥下障害)、聞こえにくい(聴覚障害)などがあります。
吃音外来のある病院の例
吃音外来を設けている病院もあります。北里大学病院の吃音外来は中学生以上を対象としており、医師の診察と言語聴覚士の言語訓練を含め、1回の受診でおよそ1時間30分程度です。概ね1か月に1回程度の通院が必要で、個人差がありますが、5〜7回程度の通院で終了となります。
小豆畑病院(茨城県那珂市)では、小さなお子さんから成人の方まで、吃音で悩むすべての方を対象に相談や訓練を受け付けています。細木病院(高知県)では、子どもは小児科の「小児こころの外来」、成人は耳鼻咽喉科で対応しています。神奈川県立こども医療センターでは、流暢に話す訓練などを個別に行い、1回が30分から40分です。
自宅でできるリハビリ方法
言語聴覚士の指導のもと、自宅でも継続できるリハビリ方法があります。
口腔体操
口を大きく開ける、閉じるを繰り返す体操や、唇を「イー」「ウー」と動かす練習、舌を前後左右に動かす運動、舌で頬の内側を押す動作などがあります。これらの体操は、構音障害や嚥下障害のリハビリに役立ちます。
発声練習
深呼吸をしてから「アー」と長く声を出す練習や、「パタカラ」と繰り返し発声するパタカラ体操、文章を音読する練習などがあります。
言語訓練
絵カードを見て名前を言う練習や、しりとりなどの言葉遊び、日記を書くことなどが言語機能の維持向上に役立ちます。
自宅リハビリの注意点
自宅でのリハビリは、必ず言語聴覚士の指導を受けた上で行うことが重要です。自己流のリハビリは逆効果になることもあります。また、無理をせず、疲れたら休むことも大切です。
子どもの言語療育と早期支援
早期療育の重要性
幼少期は脳の発達が最も活発な時期です。この時期に適切な支援を受けることで、学習能力や社会性を高めることができます。また、早期療育によって環境に適応する力を身につけやすくなります。
発達障害の診断を受ける子どもの数は右肩上がりとなっており、近年の診療報酬改定では、発達支援事業所における言語聴覚士の配置に加算項目が設けられたため、需要が高まっています。
療育における言語聴覚士の支援内容
言語聴覚士は発達障害のある子どもに対して、言語能力やコミュニケーションスキルの評価と支援計画の立案、発音の練習や語彙の強化・文法の理解促進といった個別療育、家庭でできる支援方法のアドバイスといった家族への指導、絵カードやジェスチャーなどを活用した代替コミュニケーション手段の導入によるコミュニケーションの促進といった支援を行います。
療育を受けられる場所
現在、小児領域の言語聴覚士の数が少なく、就職先はまだ多いとはいえる状況ではありませんが、保健センター、療育支援センター、放課後等デイサービス、児童発達支援事業所、小児科のある病院などの施設で言語聴覚士による療育を受けることができます。
コミュニケーション障害のリハビリに関するよくある疑問
言語聴覚士のリハビリは何歳から受けられるのかという点について、年齢制限はありません。乳児から高齢者まで、必要に応じてリハビリを受けることができます。小児の場合、言語発達の遅れが気になる場合は、早めに相談することをお勧めします。
リハビリの頻度については、症状や施設によって異なりますが、一般的には週1〜2回、1回20〜40分程度の訓練が行われます。急性期は頻度が高く、回復に伴って頻度を減らしていくことが多いです。
リハビリの期間については、個人差がありますが、医療保険では発症から180日が算定日数の上限となっています。ただし、医師が必要と判断した場合は、180日を超えても保険適用でリハビリを継続できます。
言語聴覚士のリハビリは入院中だけかという点について、外来でもリハビリを受けることができます。また、介護保険を利用した訪問リハビリテーションもあります。
保険が適用されない場合の対応としては、自費リハビリという選択肢があります。保険適用外のため費用は高くなりますが、期間や回数の制限なくリハビリを受けることができます。
言語聴覚士と理学療法士、作業療法士の違いについては、理学療法士は主に運動機能の回復、作業療法士は日常生活動作の改善、言語聴覚士は言語・聴覚・嚥下機能の改善を担当します。多くの場合、これらの専門職がチームを組んでリハビリを行います。
コミュニケーションの困難を抱えている方やそのご家族は、早めに専門家に相談することが大切です。言語聴覚士による適切なリハビリテーションにより、コミュニケーション能力の改善や生活の質の向上が期待できます。

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