コミュニケーション障害とは、医学的に定義された、言葉を扱うことに困難が認められる特性のことです。DSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)では「コミュニケーション症群」として分類され、言語症、語音症、吃音、社会的コミュニケーション障害、特定不能のコミュニケーション障害の5種類に分けられています。それぞれの障害は症状や特徴が異なり、発音に困難がある語音症、言葉がなめらかに出ない吃音、状況に応じた会話が難しい社会的コミュニケーション障害など、多様な形で現れます。インターネット上で使われる「コミュ障」という俗語とは全く異なる医学的な概念であり、適切な診断と支援を受けることで社会生活を送りやすくなることが期待できます。この記事では、コミュニケーション障害の5つの種類について、それぞれの特徴や症状、違いを詳しく解説し、診断方法や治療法、周囲の方の接し方についてもお伝えしていきます。

コミュニケーション障害とは何か
コミュニケーション障害(社会的コミュニケーション症)とは、知的機能の遅れや聴覚などの感覚器官には問題がないにもかかわらず、他者と十分な意思疎通ができない状態のことを指します。アメリカ精神医学会が発行している診断基準「DSM-5」では、「コミュニケーション症群/コミュニケーション障害」として分類されており、言葉を扱うことに対して障害が発生する疾患として位置づけられています。
「コミュニケーション障害」という言葉には、2つの使われ方があります。1つ目は、コミュニケーションが苦手であることを示す一般的な用語としての使われ方です。2つ目は、医学的な診断基準がある疾患として分類されている使われ方です。医学的なコミュニケーション障害は、具体的な診断基準に基づいており、多くは生物学的または神経学的な原因によるものとされています。
コミュニケーション障害は、単に「人と話すのが苦手」という状態とは本質的に異なります。言語を理解する力、言葉を発する力、状況に応じてコミュニケーションを調整する力など、コミュニケーションに必要なさまざまな能力のいずれかに困難が生じている状態です。そのため、適切な診断を受け、それぞれの障害に合った支援や治療を受けることが重要となります。
コミュニケーション障害の5つの種類一覧
医学的なコミュニケーション障害は、DSM-5において5つの種類に分類されています。それぞれの障害は症状や特徴、困難の現れ方が異なります。
言語症(言語障害) は、書くことや話すことに困難が生じる障害です。使える単語の数が少なかったり、日本語の構文を理解できなかったりするなど、言語能力全般に影響が出ます。構音障害と失語症の2つに大きく分けられます。
語音症(語音障害) は、言葉を発声・発音することが困難な状態です。言葉そのものの理解には問題がないものの、正確に発音することが難しい障害です。特定の音を正しく発音できない、音を省略してしまうといった症状が見られます。
吃音(小児期発症流暢症) は、幼少期から小児期にかけて発症する「どもり」「なめらかに話せない」という症状のことです。言葉を繰り返す「連発」、言葉を引き伸ばす「伸発」、言葉がなかなか出ない「難発」の3つの中核症状があります。
社会的(語用論的)コミュニケーション障害 は、言葉の意味そのものはわかっていても、話し相手や状況に応じたコミュニケーションが困難な障害です。2013年に発行されたDSM-5で新しく分類されました。
特定不能のコミュニケーション障害 は、コミュニケーションに関する症状があるものの、上記4つのいずれの診断基準も満たさない状態のことを指します。
| 障害の種類 | 主な特徴 | 困難の現れ方 |
|---|---|---|
| 言語症(言語障害) | 書くこと・話すことの困難 | 語彙の少なさ、構文理解の問題 |
| 語音症(語音障害) | 発声・発音の困難 | 特定の音が出ない、不明瞭な発音 |
| 吃音 | なめらかに話せない | 連発、伸発、難発 |
| 社会的コミュニケーション障害 | 状況に応じた会話の困難 | 暗黙のルールの理解が難しい |
| 特定不能のコミュニケーション障害 | 上記に分類されない症状 | さまざまな形で現れる |
言語症(言語障害)の特徴と症状
言語症(言語障害)は、書くことや話すことに困難が生じることが特徴の障害です。言語障害は大きく分けて「構音障害」と「失語症」の2つに分類されます。
言語症では、使える単語の数が少ない、主語と述語が合っていないなど日本語の構文が理解できない、ひとつのまとまりのある文章を作成できない、言葉の意味を理解することが難しい、年齢に応じた言語スキルが身についていないといった症状が見られます。
構音障害の種類と特徴
構音障害は、口や舌、声帯など発音に関わる器官や神経・筋肉の異常により、言葉がはっきり発音できなくなる障害です。脳の損傷や発達上の問題、器官の異常など、原因は多岐にわたります。構音障害の症状としては、声が出ない、声は出るがはっきりと発音できない、特定の音(特にタ行・ラ行またはバ行・パ行)が出ない、舌がもつれる、ろれつが回らないなどがあります。通常、構音障害のみの場合には、字を書いてコミュニケーションをとることは可能とされています。
機能性構音障害 は、発声器官や聴力には異常がないにもかかわらず、口や舌の使い方に偏りがあり、特定の音を誤って発音する障害です。「さしすせそ」が「たちつてと」に聞こえるといった症状が例として挙げられます。主に幼児期にみられ、成長とともに自然に改善することがあります。
運動障害性構音障害 は、脳卒中・脳外傷・神経疾患などが原因で、発音に関わる筋肉の麻痺や運動制御の障害が起こることで発音が不明瞭になる障害です。口や舌をうまく動かせず、ゆっくりで聞き取りにくい話し方になることがあります。
失語症の種類と特徴
失語症は、障害される脳の部位によってさらに分類され、症状にも違いがみられます。失語症と構音障害の違いを一言で言うと、失語症は会話のキャッチボールが成立しない状態であるのに対し、構音障害は会話の内容は正確だが、舌や口唇の運動麻痺によりろれつが回らない状態です。
代表的な失語症の種類として、運動性失語(ブローカ失語) と感覚性失語(ウェルニッケ失語) があります。運動性失語では、話していることは理解できますが、話そうと思う言葉がうまく出てきません。感覚性失語では、聞こえた音を意味のある言葉として理解することができません。発語はできるのですが相手の話を理解できないので、会話がかみ合わなくなります。
| 種類 | 特徴 | 言語理解 | 発話能力 |
|---|---|---|---|
| 運動性失語(ブローカ失語) | 言葉がうまく出てこない | 可能 | 困難 |
| 感覚性失語(ウェルニッケ失語) | 言葉の意味が理解できない | 困難 | 可能だが会話がかみ合わない |
言語障害の原因
言語障害の原因はさまざまです。脳卒中、脳腫瘍、外傷性脳損傷といった脳の損傷のほか、パーキンソン病などの神経変性疾患が挙げられます。精神疾患や発達障害、難聴などが原因となる場合もあります。
子どもの言語障害については、知的障害、難聴、肢体不自由(特に脳性まひ)、発語器官のまひや変形、てんかんその他の小児神経学的問題、自閉症・情緒障害などのほか、環境的な問題に起因することがあり、原因の特定は難しい場合があります。
語音症(語音障害)の特徴と症状
語音症(語音障害)は、言葉を発声・発音することが困難な状態を指します。話す速度やリズムに問題がある場合も含まれます。言葉そのものの理解には問題がないものの、正確に発音することが難しい障害です。
語音症では、特定の音を正しく発音できない、音を省略してしまう、音を置き換えてしまう、不明瞭な発音になる、年齢相応の発音ができないといった症状が見られます。語音症は、発声器官そのものには問題がない場合でも起こりえます。口や舌の使い方の問題、あるいは発達上の問題によって生じることがあります。
語音症の大きな特徴は、言語の理解力は正常であるにもかかわらず、発音に問題があることです。そのため、聞く力や読む力、書く力には問題がない場合が多いです。この点が、言語能力全般に影響が出る言語症との大きな違いとなっています。
幼児期に語音症が見られる場合、成長とともに自然に改善することもあります。しかし、学齢期になっても改善しない場合は、言語聴覚士による専門的な指導が必要になることがあります。
吃音(小児期発症流暢症)の特徴と症状
吃音とは、幼少期から小児期にかけて発症する「どもり」「なめらかに話せない」という症状のことです。DSM-5では、「神経発達障害」という大カテゴリに分類され、コミュニケーション障害の1分類として「吃音、小児期発症の流暢性障害」と明示されています。
吃音の発症率と特徴
吃音は、100人のうち約5〜8人の発症率であり、およそ95%の人が4歳までに症状が現れます。男女比では男性の方が多く、男女比は約3〜4:1とされています。
吃音の3つの中核症状
吃音の主な症状は「連発」「伸発」「難発」の3つです。連発 は言葉を繰り返す症状で、「ぼぼぼぼくは・・・」のように同じ音や音節を繰り返してしまいます。伸発 は言葉を引き伸ばす症状で、「ぼーーーーくは」のように音を長く伸ばしてしまいます。難発 は言葉がなかなか出ない症状で、「・・・・ぼくは」のように話し始めに言葉が詰まってしまいます。
吃音には他にもいくつかの特徴があります。随伴運動 として、話す場面で顔をしかめる・足を叩くなど、必要以上に体の一部に力が入ることがあります。工夫・回避 として、どもりやすい言葉を他の言葉へ置き換えたり、話すことを避けたりする行動が見られます。波現象 として、特定の要因なく吃音が出やすい時期・出ない時期が繰り返し現れます。
興味深い特徴として、伴奏に合わせて歌ったり、2人で同じ言葉を言ったりする場合に吃音は消失し流暢に話せることがあります。このことから、吃音は「発話のタイミング障害」と言われています。
吃音の併存症と治療
成人症例の5〜6割に社交不安症(社会不安障害)が併存すると言われています。また、吃音の18%に発達障害(知的発達症、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症など)が併存すると報告されています。
吃音があると判断された子どものうち、7割程度は特別な治療を受けることなく改善するといわれています。幼児期の吃音の治療法には、環境調整法、楽な話し方の練習、子どもの滑らかな話し方を強化していく方法などがあります。近年では、治癒が望める年齢においてはリッカムプログラム(Lidcombe Program)やRESTART-DCMといった治療法が出てきています。社交不安障害を伴う成人の吃音では、認知行動療法といった心理療法を応用した支援が良いと考えられています。
吃音と社会的支援
2024年に「改正障害者差別解消法」が施行され、国公立の学校だけではなく私立の学校も「合理的配慮」の提供が義務化されました。高校入試や大学入試での面接試験で、事前に吃音があることを伝えておくと、寛容な聞き手の姿勢や時間的な余裕の確保などの配慮を受けることができます。また、吃音症は精神障害者保健福祉手帳または身体障害者手帳の対象となるため、就職面接で障害者枠の選択肢も増えています。
社会的(語用論的)コミュニケーション障害の特徴と症状
社会的(語用論的)コミュニケーション症は、言語障害の一つで、2013年に発行された「DSM-5」で新しく分類された障害です。言葉の意味そのものはわかっていても、話し相手や状況に応じたコミュニケーションが困難なことが特徴です。
社会的コミュニケーション障害の4つの主要症状
社会的コミュニケーション障害では、4つの主要な症状があげられます。1つ目は、周囲の人との挨拶や情報共有といった社会的コミュニケーションを適切な形でとることが難しいことです。2つ目は、状況や相手に合わせてコミュニケーションを変えることが難しいことです。3つ目は、会話の社会的な共通ルールに従うことが難しいことです。4つ目は、ユーモアや隠喩・慣用句の理解や、状況に応じた言葉の解釈が難しいことです。
具体的には、相手が子どもだからわかりやすくゆっくり話したり、図書館の中で静かに話したりといったことができない、会話の文脈を理解することが苦手で慣用句やユーモアを字義通りに受け取ってしまう、いつも堅苦しい話し方しかできない、表情や姿勢、声色などの「非言語的コミュニケーション」に応じた言葉の使い分けが難しいといった困難を抱えることがあります。
診断基準と発症時期
社会的コミュニケーション障害の診断基準として、言語的および非言語的なコミュニケーションの社会的使用における持続的な困難さがあり、社会的状況に適切な様式で、挨拶や情報を共有するといった社会的な目的でコミュニケーションを用いることの欠陥が認められます。症状は発達期早期より出現していますが、能力の限界を超えた社会的コミュニケーションが要求されるまでは、その欠陥は完全には明らかにならないかもしれません。
言語や会話がある程度発達する4歳になるまでは、あまり診断されません。言語や社会的交流が複雑になる青年期早期まで明らかにならない人もいます。
自閉スペクトラム症との違い
社会的コミュニケーション障害と自閉スペクトラム症は、コミュニケーションの困難という点で共通していますが、重要な違いがあります。自閉スペクトラム症では、行動・興味・活動の限定された/反復的な様式が存在しますが、社会的コミュニケーション障害ではそれらが存在しません。この点が両者を鑑別する重要なポイントです。
原因
家族に自閉スペクトラム症や、限局性学習症のある人がいると、社会的コミュニケーション障害のリスクが高まります。そのため、この障害の発生には遺伝的な影響が関係していると考えられています。しかし、言語症やADHDを併発することも多いことから、遺伝以外に環境や発達上の問題も関係している可能性があります。
特定不能のコミュニケーション障害とは
特定不能のコミュニケーション障害は、コミュニケーションに関する症状があるものの、言語症、語音症、吃音、社会的コミュニケーション障害のいずれの診断基準も満たさない状態のことを指します。この分類は、症状はあるものの明確に分類できない場合や、十分な情報が得られない場合に使用されます。
医学的な診断においては、患者の症状を正確に分類することが重要ですが、すべての症例が明確に4つの障害のどれかに当てはまるわけではありません。そのような場合に、この「特定不能」という分類が用いられます。
「コミュ障」と医学的なコミュニケーション障害の違い
インターネット上でよく使われる「コミュ障」という言葉と、医学的な「コミュニケーション障害」は全く別のものです。
医学的な「コミュニケーション障害」は、具体的な診断基準に基づいており、多くは生物学的または神経学的な原因によるものです。言語を扱うことに対して障害が発生する疾患として位置づけられています。言語や発音、流暢性などに具体的な困難があり、診断基準に基づいて判断されます。
一般的に「コミュ障」と呼ばれるものは、「社交的な状況で不安を感じることが多く、対人関係が苦手」という非臨床的な表現です。人見知りが激しいなどコミュニケーションが苦手だと感じる方を指すネットスラングであり、医学的な診断名ではありません。単にコミュニケーションが苦手であるという自己認識や他者からの印象を表す俗語です。
「コミュ障」と感じている人の中には、社交不安障害(社会不安障害)や内向的な性格特性を持つ人が含まれることがありますが、これらは医学的なコミュニケーション障害とは異なるものです。
| 項目 | 医学的なコミュニケーション障害 | 俗語の「コミュ障」 |
|---|---|---|
| 定義 | DSM-5に基づく診断名 | ネットスラング |
| 原因 | 生物学的・神経学的要因 | 性格・環境など様々 |
| 診断 | 医療機関での診断が必要 | 自己認識・印象 |
| 症状 | 言語・発音・流暢性の具体的困難 | 対人関係の苦手意識 |
コミュニケーションに困難が生じる他の疾患との違い
コミュニケーション障害以外にも、対人コミュニケーションに困難がある障害として考えられるものがあります。
発達障害との関係
発達障害は、自閉スペクトラム症(広汎性発達障害)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害、チック症、吃音など、生まれつきみられる脳の発達の違いによるものです。発達障害の中で、コミュニケーションそのものに持続的な障害があるのが自閉スペクトラム症(ASD)です。表情を読むことや身ぶり手ぶりなどの「非言語的コミュニケーション」が苦手であることなどが影響します。
コミュニケーション障害と発達障害の違い
発達障害に関連するコミュニケーションの困難は、コミュニケーション障害と混同されることもありますが、それぞれ全く異なる障害です。コミュニケーション障害は、発声や発音、文法の組み立てが難しかったり、人とやりとりするのが難しかったりする障害です。発達障害の場合は「こだわりが強い」「常同性(同じ行動を繰り返すこと)が強い」等、コミュニケーション障害にはあまり見受けられない特徴があるのが大きな違いです。
自閉スペクトラム症(ASD)とADHDの違い
ADHDとASDは、発達障害という大きな括りでは一緒ですが、症状や特徴は異なります。ADHDは主に注意力の欠如や衝動的な行動、多動性が目立つ症状が特徴です。ADHDのある人は、主にミスや忘れ物が多いという特性から、行動面での困難が生じやすいと言われていますが、直接的にはコミュニケーションに問題が生じないと考えられます。
ASD(自閉スペクトラム症)はコミュニケーション難や強いこだわりが特徴といわれています。一般的にADHDでは集中することが難しいとされる一方で、ASDでは特定のことにこだわり高い集中力を発揮する傾向があるとされています。
ASDとADHDが併存するケースも少なくありません。以前はASDとADHDの併存が認められていませんでしたが、DSM-5から認められるようになりました。発達障害のある成人(20〜70歳)838名のうち、ADHDとASDの併存は26.8%(225例)という報告もあります。「自閉スペクトラム症とADHD」「LDと自閉スペクトラム症」など、特性を重ねてもつ人も多く、それぞれの障害を明確に分けて診断することは大変むずかしいことが知られています。
その他の関連疾患
コミュニケーションに困難が生じるその他の疾患として、不安障害(社交不安障害など、対人場面での不安が強いことでコミュニケーションに困難が生じる)、パーソナリティ障害(対人関係のパターンに問題があることでコミュニケーションに影響する)、知的障害(全般的な知的機能の遅れにより、コミュニケーションにも困難が生じる)、てんかん(てんかんに伴う認知機能の問題がコミュニケーションに影響することがある)などがあります。
コミュニケーション障害の診断方法
コミュニケーション障害の診断を受けるためには、医療機関を受診する必要があります。
受診する科
大人の診断は精神科や心療内科で行います。小児であれば小児科、精神科、心療内科などが対象となります。語音症や小児期発症流暢症(吃音)の診断は、耳鼻咽喉科やリハビリテーション科で行うこともあります。施設によっては、「メンタルクリニック」や「こころのクリニック」などの名称である場合もあります。医療機関によっては、18歳未満か18歳以上かによって受診する科が分かれる場合もあります。何科に行けばよいか迷ったときは、総合窓口に相談してみましょう。
医療機関の探し方
診断をしてもらえる医療機関を探すとき、一部の市町村や都道府県では地域の医療機関リストを作成している場合もあるので利用するといいでしょう。発達障害について相談する際には、専門的な診療を提供している医療機関かどうかを確認することをおすすめします。
医療機関以外の相談先
医療機関以外にもさまざまな相談先があり、悩みや困りごとに応じた相談先から、それぞれに合った支援・サービスにつなげていくことができます。医療機関で発達障害の診断を受けなくても、利用可能な支援や福祉サービスはあります。相談することで困りごとが整理できたり、心理検査やアセスメントをすることで特性に合わせた対応を知ることもできます。
コミュニケーション障害の治療法と支援
コミュニケーション障害は脳の発達期の障害であり、なんらかの根本的な治療で完治するものではありません。しかし、診断結果をもとに、治療や支援を受けることで、社会で過ごしやすくなることが見込めます。コミュニケーション障害は5つの疾患に分類されているため、障害の種類や症状によって治療法は異なります。
言語障害・語音症の治療
言語障害と語音症の治療には、言語聴覚士による言語療法がおこなわれることがあります。言語療法とは、言語理解、発話、社会的コミュニケーション能力の改善を目的として行われるリハビリテーションです。一口に言語障害といっても、症状の出方や重症度には個人差が大きく、個々人に合わせたリハビリテーションのプログラムが必要となります。
吃音の治療
吃音の場合には、言語聴覚士による言語療法の他に、吃音が出やすい状態を周囲が理解して環境を調整したり、カウンセリングや認知行動療法などによって症状をコントロールすることができるケースがあります。
社会的コミュニケーション障害の治療
社会的コミュニケーション障害の場合には、社会生活や日常生活を円滑に送る際に必要となるスキルを身につけるためのSST(ソーシャルスキルトレーニング)を行うことで、状況に応じたコミュニケーションを習得できるケースがあります。ただし、社会的コミュニケーション障害に対する治療で、明確なエビデンス(科学的根拠)のあるものはほとんどありません。
リハビリテーションの段階
リハビリは、発症直後から3週間位までの「急性期」、病状安定後から3〜6か月程度までの「回復期」、それ以降の「維持期」の3段階に分けられます。急性期のリハビリは、病後の廃用症候群の予防が目的となります。廃用症候群は筋力が衰えたり、関節が固まることで、肺炎や認知症の二次的障害を起こすリスクも高まりますから、残存機能を活性化する必要があります。
構音障害のリハビリテーション
リハビリテーションの目標は、構音障害の原因によって異なります。構音障害の原因が、脳卒中、頭部のけが、脳外科手術の場合、発語能力の回復と維持がリハビリテーションの目標となります。構音障害が軽度の患者は、単語や文を繰り返し発することで、顔の筋肉や舌をどう使えば正しく発音できるかを再習得することができます。構音障害が重度の患者には、文字や絵を書いたボードや、キーボードとメッセージ表示機能を備えたコミュニケーション用の電子機器の使用方法が指導されます。
支援のポイント
リハビリでは、言語能力の向上とコミュニケーション能力の回復を目指します。写真・絵・文字・ジェスチャーなど、さまざまな方法を活用して支援します。また、日常生活での言語支援も重要です。家庭内での会話を増やすことで、リハビリの効果を高めることにつながります。患者さんがコミュニケーションが取れるように環境を整え、リハビリなどを行うとともに、非言語コミュニケーションを用いたコミュニケーションの取り方も検討することが重要です。
コミュニケーション障害のある方への接し方
コミュニケーション障害のある方と接する際には、いくつかのポイントを心がけることで、よりスムーズなコミュニケーションが可能になります。
基本的な心構え
言語障害のある方に話しかける際には、ゆっくりとわかりやすい言葉を遣う、言葉が出てこない場合にはせかさないで待ってあげる、言葉が出にくい場合は「はい」「いいえ」で答えられる質問を用意する、相手のペースに合わせて会話する、非言語的なコミュニケーション(ジェスチャー、表情、筆談など)も活用するといったことを心がけると良いでしょう。
吃音のある方への配慮
吃音のある方と接する際には、話し終わるまで待つ、言葉を先取りして言わない、ゆっくり話すように促さない(かえって症状が悪化することがある)、話の内容に集中し話し方ではなく話の内容を聞くといった点に気をつけましょう。
子どもの言語障害への対応
子どもの言語障害は、発音が不明瞭な構音障害や吃音、言語発達のみが遅れる発達性言語障害、全体的に言葉の発達が遅い言語発達遅滞など、さまざまな種類があります。吃音などの場合、心理的緊張が症状を悪化させる場合があるので、温かく見守ることが大切です。
コミュニケーション障害の原因
コミュニケーション障害のはっきりした原因は解明されていません。症状の種類によって関係する要因が異なり、遺伝や発達、家庭環境など複数の要素が重なっている場合が多いです。
遺伝的要因 として、家族に自閉スペクトラム症や限局性学習症のある人がいると、コミュニケーション障害のリスクが高まることが報告されています。このことから、遺伝的な影響が関係していると考えられています。
神経学的要因 として、脳卒中、脳腫瘍、外傷性脳損傷といった脳の損傷が原因となることがあります。また、パーキンソン病などの神経変性疾患も言語障害の原因となりえます。
発達上の要因 として、発達の過程で何らかの問題が生じ、言語やコミュニケーション能力の発達に影響を及ぼすことがあります。
環境的要因 として、家庭環境やコミュニケーションの機会なども、コミュニケーション能力の発達に影響を与える可能性があります。
まとめ
コミュニケーション障害は、医学的に定義された、コミュニケーションに困難が認められる特性です。言語症(言語障害)、語音症(語音障害)、吃音(小児期発症流暢症)、社会的コミュニケーション障害、特定不能のコミュニケーション障害の5つに分類されています。
それぞれの障害には異なる特徴があり、治療法や支援方法も異なります。言語障害や語音症には言語聴覚士による言語療法が、吃音には環境調整や認知行動療法が、社会的コミュニケーション障害にはソーシャルスキルトレーニングが効果的とされています。
インターネット上で使われる「コミュ障」という言葉と医学的なコミュニケーション障害は全く異なるものです。医学的なコミュニケーション障害は診断基準に基づいて判断され、適切な支援を受けることで社会生活を送りやすくなることが期待できます。
コミュニケーション障害は完治する障害ではありませんが、早期発見・早期支援により症状の改善や社会適応が可能です。困りごとを感じた場合は、医療機関や相談機関に相談することをおすすめします。

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