場面緘黙症の子どもがいる家庭において、きょうだい児の心のケアと親の関わり方は、家族全体の幸せを左右する重要な課題です。きょうだい児とは、障害や難病を持つ兄弟姉妹がいる子どものことを指し、場面緘黙症の子どもの兄弟姉妹もこれに該当します。親の関心が場面緘黙症の子どもに向きがちな中で、きょうだい児は「自分は後回しにされている」という孤独感を抱えやすく、適切な心のケアが必要となります。
場面緘黙症は家庭では普通に話せる子どもが、学校などの特定の場所で話せなくなってしまう症状であり、本人の意思とは関係なく起こる不安症の一種です。この症状を持つ子どもへの支援に注目が集まる一方で、同じ家庭で育つきょうだい児もまた特有のストレスや悩みを抱えています。本記事では、場面緘黙症についての基本的な理解を深めながら、きょうだい児への心のケアの具体的な方法と、親としてどのように両方の子どもに関わっていくべきかについて詳しく解説していきます。きょうだい児の存在を忘れず、一人ひとりが大切にされていると感じられる家庭環境づくりのヒントをお伝えします。

- 場面緘黙症とは何か
- 場面緘黙症の発症時期と原因について
- 場面緘黙症を放置した場合のリスク
- きょうだい児とは何か
- きょうだい児が抱える心理的課題
- きょうだい児がなりやすい心理パターンとその影響
- 年齢によるきょうだい児の心境の変化
- 場面緘黙症の子どもへの親の関わり方の基本
- 場面緘黙症の子どもにやってはいけない対応
- 家庭でできる具体的なサポート方法
- 子どもの代弁者としての親の役割
- 専門的な治療アプローチについて
- スモールステップの具体的な実践方法
- 学校での合理的配慮について
- きょうだい児への心のケアの重要性
- きょうだい児と一対一の時間を確保する
- きょうだい児に自分の好きなことをしていいと伝える
- きょうだい児への感謝の気持ちを伝える
- スキンシップの重要性
- 家族全体でバランスを取る方法
- 役割の偏りを防ぐ
- 親自身のケアも忘れずに
- 外部の支援を活用する
- きょうだい児向けの専門相談窓口
- 学校や地域との連携の重要性
- 支援団体の活用
- 長期的な視点での支援について
- きょうだい児の将来への不安に寄り添う
- きょうだい児としての経験のポジティブな側面
- 大人になった場面緘黙経験者への支援
- きょうだい児の声に耳を傾けることの大切さ
- 家族全員が幸せに暮らすために
場面緘黙症とは何か
場面緘黙症(選択性緘黙)とは、家庭などの安心できる場所ではふつうに話すことができるにもかかわらず、学校や職場などの特定の場所や状況において話せなくなってしまう症状のことです。医学的には「不安症群」に分類されており、本人の意思とは関係なく話せなくなる状態を指します。
場面緘黙症の最も大きな特徴は、「話したくない」のではなく「話せない」という点にあります。これはわがままや反抗ではなく、不安が高まることで声が出なくなってしまう状態です。症状の出方は人によって異なり、「友達とは話せるけれど先生とは話せない」「小声であれば話せる」など、さまざまなパターンがあります。また、言葉が出ないだけでなく、感情表現がとぼしくなったり、動作がしにくくなったりする「緘動(かんどう)」という症状が現れることもあります。
学校では、先生から当てられても答えられない、友達から話しかけられても声が出ない、トイレに行きたくても言い出せないなどの状況がよく見られます。重症の場合は、家庭内でも父親とだけ話せないなど、家族内でも発話できない場面が生じることがあります。
場面緘黙症の発症時期と原因について
場面緘黙症は2歳から5歳に多く見られ、入園や入学などの環境変化がきっかけとなって発症することが多いとされています。集団生活が始まる4歳以降に発見されるケースが特に多くなっています。発症の原因は単一ではなく、生来的な気質や神経発達、環境など複数の要因が関係しています。
場面緘黙症を発症する子どもの多くには「不安になりやすい気質」が見られますが、これは性格ではなく生物学的な要因として考えられています。重要なのは、親の過保護やしつけなど「育て方のせい」ではないということです。場面緘黙症は親のしつけや育て方が原因で発症するものではありません。
場面緘黙の出現率は、小学生を対象とした大規模な調査によると約0.21パーセント、約500人に1人とされており、小学校に1人から2人はいる割合です。決して珍しい症状ではなく、教育現場での理解と対応が求められています。
場面緘黙症を放置した場合のリスク
場面緘黙症に気づけなかった場合や適切な支援を行わなかった場合は、二次障害のリスクが高まります。例えば、場面緘黙症が長引くことで友人ができず、疎外感からだんだん学校に行きづらくなるといった問題が生まれる可能性があります。
適切な支援を受けずにいると、思春期以降に二次的な問題が生じることがあります。話せないまま過ごしたことで自己肯定感が低下したり、周囲との関わりが苦手になって不登校や対人不安につながったりする影響が考えられます。そのため、早期発見と早期対応が非常に重要です。
きょうだい児とは何か
「きょうだい児」とは、障害や難病を持つ兄弟・姉妹がいる子どものことを指します。場面緘黙症の子どもがいる家庭では、その兄弟姉妹がきょうだい児に該当します。きょうだい児は、親の関心がきょうだいに偏るのを我慢したり、兄弟・姉妹の世話をしたりと、幼少期から悩みや問題を抱えるケースが少なくありません。
また、きょうだい児はヤングケアラーになりうる対象の一つでもあります。親が仕事で忙しいなどの理由で、障害のあるきょうだいの世話をしなければならない状況に置かれることもあり、子ども自身の生活や成長に影響を与える可能性があります。
きょうだい児が抱える心理的課題
きょうだい児は、しばしば複雑な感情を抱えています。羨望、嫉妬、愛情、責任感、孤独感など、さまざまな感情が混在することがあります。「自分ばかり我慢している」と感じたり、「お父さんもお母さんも、いつも妹(弟)ばかり見ている」と寂しく思ったりすることもあります。
しかし、そんな気持ちを保護者に伝えるのをためらって、一人で抱え込んでしまう子どもも少なくありません。きょうだい児に共通してあるのは、「僕(私)が障害がある家族を守らなければいけない」という思いです。この使命感は親が強要したり教えたりしたものではなく、自然と身についてしまうものであり、だからこそ注意深く見守る必要があります。
きょうだい児がなりやすい心理パターンとその影響
きょうだい児がなりやすい心理パターンとして、アダルトチルドレンの「英雄タイプ」があります。このタイプは家庭内での責任感が強く、周囲の期待に応えるために頑張りすぎる傾向があります。幼い頃から親や家族から大きな期待やプレッシャーを受け、自分の感情や欲求を後回しにして自己犠牲的に振る舞います。
そのため、ストレスや孤独感を感じやすく、内に抑え込んだ感情が蓄積し、心理的な負担が大きくなりがちです。本人としては、そこまで自分はできるほうではないにもかかわらず、両親からの期待に応えなければとがんばり続けて、限界がきて心が折れてしまうケースも少なくありません。
一方で、「退却する子」というタイプもあります。家族とは別の生活をしているように行動し、障害を持っているきょうだいのことはできるだけ気にしないようにして、ストレスを高めるような家庭の活動から退却するパターンです。どちらのタイプであっても、きょうだい児特有の心理的負担を抱えていることに変わりはありません。
年齢によるきょうだい児の心境の変化
中学生になると、きょうだい児であることに自分なりの考えを持つようになります。障害や難病のある兄弟・姉妹をケアしている親の大変さを知ることで「自分がしっかりしなければ」と責任感を持つようになる一方で、将来への不安を抱くようになります。
また、誰に相談したら良いのか分からないといった孤独感を感じるケースもあります。思春期特有の心の揺れと、きょうだい児としての立場が重なり、複雑な心境になることが多いです。こうした年齢による変化を理解し、成長段階に応じたサポートを提供することが親には求められます。
場面緘黙症の子どもへの親の関わり方の基本
場面緘黙症のお子さまは、「話したくない」のではなく、「話せない」状態にあります。そのため、「どうして話さないの?」と責めたり、無理に話させようとしたりすると、かえって不安が強まってしまいます。まず家族や教師が場面緘黙を理解すること、そして本人が場面緘黙について知識が得られるようサポートすることが大切です。
絵本「なっちゃんの声」や書籍「どうして声が出ないの?」を読んであげることも推奨されています。子ども自身が「自分だけではない」と知ることで、安心感を得られる可能性があります。
場面緘黙症の子どもにやってはいけない対応
緘黙症状が出ている場面で「挨拶しなさい」などと無理矢理に挨拶やお礼、話をさせようとすることは避けるべきです。これをやっても本人は困ってしまうだけで、わざわざ失敗経験をさせていることにしかなりません。
また、場面緘黙は「経験不足」から生じているものではありません。塾や習いごと、放課後等デイサービスなどにたくさん通わせても、緘黙症状の改善にはつながりません。無理に社会的な場面を増やすことは、かえって逆効果になることがあります。子どものペースを尊重し、焦らずに見守る姿勢が重要です。
家庭でできる具体的なサポート方法
家庭では「~しないと困るよ」という否定的な声掛けではなく、「~するとこうなるよ」と肯定的な言葉かけを心掛けましょう。子どもが言った言葉を「繰り返し」してあげたり、話せた時に発話や発話の内容を「具体的にあげてほめる」ことが大切です。
親御さんにだけでも声を出せたときは「ちゃんと伝えられたね」と褒めれば、お子さまの自信につながります。また、「先生にうなずけた」「友達と目を合わせられた」など、話すこと以外の小さな成功体験も積み重ねることで、症状が軽減する可能性があります。
場面緘黙症の改善には個人差があり、無理に話すことを求めるよりも、お子さま自身のペースを尊重するのが重要です。すぐに変化が見られなくても、「焦らなくて大丈夫」と安心感を与えることで、お子さまは自分のペースで成長できます。
子どもの代弁者としての親の役割
場面緘黙の子どもを持つ親には、子どもの代弁者としての役割がより強く求められます。親と家でしか話せないため、家で子どもの話に耳を傾け、それを学校の先生や医師、支援に関わっている人に分かりやすく伝え、理解してもらうことが必要です。
本人の気持ちや困っていることを聞きつつ、安心できる環境や小さなチャレンジができる状況を一緒に考えていくことが支援の第一歩になります。子どもが自分の気持ちを表現できる機会を家庭で作り、その内容を外部に橋渡しする役割を担うことで、学校や医療機関との連携がスムーズになります。
専門的な治療アプローチについて
行動療法的介入は、不安を軽減させるのに効果的であり、言語的コミュニケーションを増大させることが研究で示されています。刺激フェーディング法は、子どもがすでに話すことができている人と場所を特定し、それを新しい人や場所でもできるようにサポートしていく方法です。
この方法では、子どもが話せる人と場所を少しずつ広げていくアプローチで、スモールステップで進めていきます。専門家は「場面緘黙は必ず改善する」と述べています。まずは学校と連携して頼れる専門家を探し、しっかりと改善への計画を立てていくことが大切です。
スモールステップの具体的な実践方法
場面緘黙の治療には、「スモールステップ」という考え方が大切にされています。これは一気に治すのではなく、段階的な治療・訓練を経て、ゆっくり改善させるアプローチです。
スモールステップの具体例としては、まず親しい人との間で声を出す練習から始めます。次に先生に録音した声を聞かせる段階に進みます。そして先生に小さな声で挨拶してみるという流れで進めていきます。このように、本人が「できた!」と達成感を得られる小さな目標を段階的に設定し、自信を育てていきます。
刺激フェイディング法と段階的エクスポージャー法を中核的な技法とし、家庭や学校や地域場面で子どもと親と担任が協力して実施します。その達成度に基づいて次のステップを作成するという方法で、スモールステップがきめ細かく設定されており、子ども自身の達成感を確認しつつ前に進むことができます。
本人が自信を育み成功体験を得ることに加え、その過程において支援者が肯定的なフィードバック(承認・称賛など)を行い、努力を認めることが大切です。家族が「なぜ話さないの?」と責めたり焦ったりするのではなく、「今は話せないだけ」と理解し、温かく見守ることが子どもにとって大きな安心感につながります。
学校での合理的配慮について
障害者差別解消法によって、学校に対して「合理的配慮の提供」の義務が明確に示されました。場面緘黙の子どもに対しても、適切な配慮を求めることができます。
学校でやってはいけない対応として、「言ってみてごらん」「小さな声でいいから」など話し出すのを待つことがあります。これは注目を必要以上に集め、心理的な負担を大きくします。ただし、「どうせできないから順番を飛ばしてあげよう」と勝手に順番を飛ばすこともよくありません。本人の意思を確認しながら、適切な配慮を行うことが求められます。
推奨される学校での対応としては、無理に声を出させるような指導はせず、筆談をしたり、タブレット型端末等を活用したりするなどコミュニケーションの代替手段を習得するための支援を行うことが重要です。話す以外に書くことや手話、ジェスチャー、パソコンやタブレット型端末を利用する等の方法を伝えることで、子どもが自分の意思を表現できる手段を確保します。
席決めの工夫も効果的です。唯一学校でもお話しができる子が必ず席の前後左右に来るように配置することで、困ったときに相談できるという安心感を持てるようになります。また、自己選択・自己決定の支援として、自分の希望の選択肢が示されている場合には手を挙げる、意にそぐわない場合には何もしないように決めて、自分の意思を示せるようにする方法もあります。
きょうだい児への心のケアの重要性
きょうだい児は、場面緘黙症の兄弟姉妹がいることで、様々な感情を抱えています。親の注意が場面緘黙症の子どもに向きがちなため、「自分は後回しにされている」と感じることがあります。また、学校や社会の場で兄弟姉妹が話せない様子を見て、戸惑いや恥ずかしさを感じることもあるかもしれません。
こうした複雑な感情を持つこと自体は自然なことであり、否定せずに受け止めることが大切です。きょうだい児の気持ちを理解し、その存在を大切にする姿勢を示すことが、家族全体の安定につながります。
きょうだい児と一対一の時間を確保する
障害のある子に多くの時間や注意が向けられがちですが、きょうだい児と一対一で過ごす時間も確保しましょう。この時間は、きょうだい児が自分自身が大切にされていると感じるために必要なものです。
共通の趣味を楽しむ、ゆっくり話をする、一緒に遊ぶなど、質の高い時間を一緒に過ごせると良いでしょう。「あなたの気持ちをちゃんと聞きたいよ」という姿勢を見せるだけでも、子どもたちは安心します。短時間でも保護者とその子だけの秘密の時間を作り、一緒に好きなことを楽しむことが効果的です。
きょうだい児に自分の好きなことをしていいと伝える
「あなたはお手伝いばかりでなく、自分の好きなこともしていいんだよ」と伝えることも大切です。きょうだい児は、無意識のうちに自分の欲求を抑え、家族のために尽くそうとする傾向があります。
その子の夢ややりたいことを応援することで、「自分も家族の大事な一員なんだ」と実感できるようになります。過度な負担をかけないよう配慮しながら、きょうだい児自身の人生を大切にすることを伝えましょう。子どもには子どもの生活があり、友達と遊んだり、自分の興味を追求したりする時間も必要です。
きょうだい児への感謝の気持ちを伝える
きょうだい児が場面緘黙症の子どもをサポートしてくれたら、「ありがとう」と必ず言いましょう。これだけでも、きょうだい児の精神的なストレスは軽くなります。手伝ってくれたことへの感謝を具体的に伝えることで、きょうだい児は自分の存在価値を感じることができます。
当たり前と思わず、言葉にして伝えることが重要です。「今日、弟のことを手伝ってくれてありがとう」「あなたがいてくれて助かっているよ」など、具体的な場面を挙げて感謝を伝えることで、きょうだい児は自分の行動が認められていると実感できます。
スキンシップの重要性
スキンシップにより、オキシトシン(愛情ホルモン)が分泌され、安心感を与える、ストレスを和らげる、幸せを感じさせるなどの効果があります。特に年齢が低いきょうだい児には、抱きしめたり、頭をなでたりするスキンシップが効果的です。
言葉だけでなく、身体的な接触を通じて愛情を伝えることで、心の安定につながります。忙しい日常の中でも、意識的にスキンシップの機会を作ることで、きょうだい児の心のケアにつながります。
家族全体でバランスを取る方法
場面緘黙症の子どもときょうだい児、そして親という家族全体で、チームとして支え合う意識を育むことが大切です。場面緘黙症について家族全員で理解を深め、どのようにサポートしていくかを話し合いましょう。
きょうだい児にも、場面緘黙症についての正しい知識を年齢に応じた形で伝えることで、兄弟姉妹への理解が深まり、より良い関係を築くことができます。「誰も障害についておしえてくれなかった」という声もあり、きょうだい児に対して適切な情報提供や説明を行うことも重要です。
役割の偏りを防ぐ
きょうだい児に場面緘黙症の兄弟姉妹の世話を任せすぎないようにしましょう。発達に課題を持つ兄弟姉妹をサポートする役割を持つことも多々ありますが、彼らが子どもであることを忘れず、無理な負担をかけないようにすることが大切です。
支え合うことは素晴らしいことですが、バランスを保つことが重要です。きょうだい児は両親に迷惑をかけないように「良い子」や「目立たない子」になるように努力する場合もあるため、問題が見えにくくなってしまうことがあります。「甘えたくても甘えることができない」「兄弟姉妹間での優先順位がいつも後になる」といった思いを抱えていることが少なくないことを理解しておきましょう。
親自身のケアも忘れずに
場面緘黙症の子どもを育てながら、きょうだい児にも目を配るのは、親にとって大きな負担となることがあります。親自身が疲弊してしまっては、十分なケアを提供することが難しくなります。休息やリフレッシュの時間を確保することも大切です。
必要に応じて、短期入所(ショートステイ)などの公的サービスを利用することも検討しましょう。宿泊を伴って最大で連続30日間利用することができ、休息をとりたいなどの理由でも利用が可能です。親が心身ともに健康であることが、子どもたちへの良いケアにつながります。
外部の支援を活用する
家族だけで抱え込まず、外部の支援を積極的に活用しましょう。相談できる場所として、発達相談窓口(市区町村の保健センター・発達支援センター)、学校の先生・スクールカウンセラー、児童精神科・小児心療内科、ペアレントトレーニング・支援グループなどがあります。
きょうだい児専用のリソースやサポートグループもあるので、利用を検討してみてもいいかもしれません。同じような状況の子どもたちと交流することで、自分だけではないことを理解したり、心理的サポートを受けることができます。
きょうだい児向けの専門相談窓口
きょうだい児に特化した相談窓口として、オンラインカウンセリングサービスがあります。うららか相談室やココロの窓口では、きょうだい児やその家族からの相談を受け付けており、社会福祉士や臨床心理士などの専門家に相談することができます。
きょうだい児の子育てやケア、支援についてどうすればいいか分からないという場合は、専門家に相談することで具体的なアドバイスを得ることができます。オンラインで相談できるため、地域に関係なく利用しやすいというメリットがあります。
また、一般的な子ども・家族向けの相談窓口として、地域の保健所や保健センター、精神保健福祉センター、こころの相談統一ダイヤルなど公的な相談窓口も利用可能です。医師、心理士、スクールカウンセラーなど各分野の専門家に相談できるサービスも増えています。
学校や地域との連携の重要性
場面緘黙症の子どもの支援には、学校との連携が欠かせません。担任の先生やスクールカウンセラーと情報を共有し、学校での対応について相談しましょう。2025年には、文部科学省の中央教育審議会において場面緘黙親の会による意見発表が行われ、教育現場における場面緘黙症への理解と支援体制の構築が政策レベルで議論されました。
きょうだい児についても、学校との連携が重要です。目白大学の滝島真優助教は、「子どもにとって、家族以外の身近な大人は学校の教職員で、教育現場の理解や支援が不可欠」と指摘しています。「まずはきょうだい児それぞれの個性や家庭環境に配慮しつつ、孤立感を抱えていないか、家庭での手伝いが負担になっていないか、行政の支援などにつなぐ必要がないか見極める必要がある」とも述べています。
支援団体の活用
「きょうだい支援を広める会」は、慢性疾患や障害のある子どものきょうだい(児)の支援を広めることを目的とした団体で、2004年から活動しています。「Sibkoto(シブコト)」は、きょうだいがひとりではないことを知るために立ち上げられた、きょうだいのためのサイトです。
こうした支援団体の情報やリソースを活用することで、家族だけでは得られない情報やサポートを受けることができます。同じ立場の人々とつながることで、孤独感の軽減や具体的な対処法の共有が期待できます。
長期的な視点での支援について
場面緘黙症の症状は、適切な支援によって改善していく可能性があります。子どもの成長に合わせて、支援の方法も柔軟に変化させていくことが大切です。きょうだい児についても、年齢が上がるにつれて抱える悩みや必要なサポートが変わってきます。
定期的に子どもたちの状態を確認し、必要に応じて対応を見直しましょう。専門家は「場面緘黙は必ず改善する」と述べており、焦らずに長期的な視点で取り組むことが重要です。
きょうだい児の将来への不安に寄り添う
きょうだい児が成長するにつれて、将来への不安を抱くことがあります。「将来、自分が兄弟姉妹の面倒を見なければならないのか」といった心配を持つこともあるでしょう。
こうした不安に対しては、正直に話し合い、利用できる社会的支援や制度について一緒に学ぶことが大切です。きょうだい児が自分自身の人生を歩むことを応援しながら、家族としてのつながりも大切にするバランスを見つけていきましょう。
きょうだい児としての経験のポジティブな側面
きょうだい児であることは、困難だけでなく、ポジティブな側面もあります。他者への思いやりや共感力、忍耐力、問題解決能力など、様々な強みを身につける機会にもなります。
きょうだい児としての経験を、その子自身の成長につなげられるよう、ポジティブな面にも目を向けることが大切です。実際に「弟にはダウン症と知的発達の遅れがあるけれど、弟がいなかったら障害のことを知らないまま大人になっていたと思う」「ほかの人が体験できないようなことを、ちょっと辛かったけど体験できたことは良かったと思う」といった声もあります。
大人になった場面緘黙経験者への支援
場面緘黙症は子ども時代に発症するケースがほとんどですが、子どもの頃からの症状が見過ごされ、そのまま大人になっても症状が持続しているというケースも多くあります。性格によるものだと周りから判断されてしまうことが多いため、「場面緘黙」という症状であることが気づかれにくいのが現状です。
大人の場面緘黙は特に職場で表れやすく、のどが圧迫されるような感覚で声が出ない、質問したいことがあるのに上司や同僚に話しかけられない、話しかけられたときにすぐに答えられないなどの症状があります。会議での発言や電話応対が困難なため、キャリア形成や昇進の機会を逃すことにつながりかねません。
対策としては、まず自分がどのような状況で場面緘黙の症状が出るのかを整理することが大切です。誰となら話せるか、どこなら話せるかを把握し、克服できそうな状況から少しずつコミュニケーションが取れるようにチャレンジしていきます。職場における配慮としては、質問は「はい」か「いいえ」で答えられる形にしてもらうなどがあります。
就労移行支援という、障害や病気のある方が社会生活においてスムーズに就労できるために受けられるサービスもあります。障害に理解のある企業を中心に各個人の特性に合った職場を探す支援を受けることができます。
きょうだい児の声に耳を傾けることの大切さ
きょうだい児の気持ちに寄り添い、その声に耳を傾けることは非常に重要です。きょうだい児は両親に迷惑をかけないように「良い子」や「目立たない子」になるように努力する場合もあるため、問題が見えにくくなってしまうことがあります。
兄弟姉妹の状態について年齢に応じた形で伝え、疑問に答えることで、きょうだい児の理解と心の安定を助けることができます。定期的に「何か困っていることはない?」「学校はどう?」など声をかけ、きょうだい児が話しやすい雰囲気を作ることが大切です。
家族全員が幸せに暮らすために
場面緘黙症の子どもを持つ家庭では、その子どもへのケアとともに、きょうだい児への心のケアも重要な課題です。両方の子どもに適切な愛情と支援を提供することは、決して容易ではありませんが、家族全体で支え合い、外部の支援も活用しながら取り組んでいくことが大切です。
場面緘黙症は必ず改善する可能性があります。焦らず、子どもたちそれぞれのペースを尊重しながら、長期的な視点で支援を続けていきましょう。そして、きょうだい児の存在を忘れず、一人ひとりが大切にされていると感じられる家庭環境を作ることが、家族全員の幸せにつながります。
親自身も完璧である必要はありません。困った時には専門家や支援団体に相談し、一人で抱え込まないことが大切です。場面緘黙症の子どもときょうだい児、それぞれが持つ可能性を信じ、温かく見守りながら成長を支えていくこと。それが親にできる最も大切な役割です。困難な時期があっても、家族の絆を大切にしながら乗り越えていくことで、より強い家族の形を築くことができるでしょう。

コメント