場面緘黙症の子どもの就学先選びでは、通常学級、通級指導教室、特別支援学級の3つが主な選択肢となり、子どもの非言語コミュニケーション能力や二次障害の有無、併存する発達特性などを総合的に評価して判断することが重要です。場面緘黙症は「話したくても話せない」不安症の一種であり、本人の意志や性格の問題ではなく、脳の扁桃体が過剰に反応する「すくみ反応」が原因となっています。就学先の選択に絶対的な正解はありませんが、文部科学省の通知や専門家の知見に基づいた判断基準を理解しておくことで、子どもにとって最適な学びの場を見つける手がかりとなります。この記事では、場面緘黙症の基礎知識から就学先ごとの特徴、具体的な判断基準、学校生活における合理的配慮の実践例まで、保護者や教育関係者に必要な情報を網羅的にお伝えします。

場面緘黙症とは?「話したくても話せない」不安症の正しい理解
場面緘黙症(Selective Mutism)は、家庭などの安心できる環境では流暢に会話ができるにもかかわらず、学校などの特定の社会的状況において発話が一貫してできなくなる精神疾患です。医学的には不安症(不安障害)の一種として分類されており、「極度の人見知り」や「性格的な内気さ」とは明確に区別されます。
この症状の背景には、脳の扁桃体が過剰に反応する「すくみ反応(Freeze Response)」があります。外敵やストレス源に遭遇した際に脳が生命の危機を感じ取り、身体を動かなくさせることで身を守ろうとする本能的な反応が「話せない」という形で現れるのです。学校現場で「わざと話さない」「反抗している」と誤解されるケースがありますが、これは本人の意志とは無関係の生理的反応です。誤った対応は症状の固定化だけでなく、うつ病や不登校、社交不安障害といった二次障害を引き起こす要因となるため、早期の正しい理解と適切な環境調整が不可欠となります。
DSM-5に基づく場面緘黙症の診断基準
場面緘黙症の診断は、アメリカ精神医学会の『精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)』に基づいて行われます。診断にはいくつかの重要な基準が設けられています。
まず、特定の社会的状況での一貫した発話不全が求められます。家庭では話せるにもかかわらず、学校など話すことが期待される場面で常に話せない状態が続くことが条件です。「たまに話せない」のではなく、一貫性があることがポイントとなります。次に、その症状が学業や対人コミュニケーションに支障をきたしていること、そして1ヶ月以上の持続期間があることが必要です。ただし、入学直後の1ヶ月間は新しい環境への適応期間として除外されます。
さらに、言語能力の問題ではないことの確認と、吃音症や自閉スペクトラム症(ASD)など他の疾患では説明できないことの除外も診断基準に含まれます。ただし、場面緘黙症とASDが併存するケースは稀ではなく、その場合は両方の特性を考慮した支援が必要です。また、バイリンガルの環境にある子どもは言語的な不安から場面緘黙を発症しやすいという指摘もあり、慎重な見極めが求められます。
「緘動(かんどう)」という見過ごされやすい身体症状
場面緘黙症の症状は「話せない」という言語面だけにとどまりません。多くの当事者は、強い不安や緊張にさらされた際に身体が石のように固まってしまう「緘動(かんどう)」と呼ばれる状態を経験します。緘動の状態にある子どもは、自分では動かしたいと思っているにもかかわらず手足を動かすことができません。
具体的な場面としては、体育の授業で「集まれ」と号令がかかってもその場から動けない、給食の時間に箸を持つ手が止まってしまい食べられない、休み時間にトイレに行きたくても席を立てないといった事態が生じます。表情筋が硬直するため無表情になり、笑顔を作ることができない、視線を合わせられず伏し目がちになるといった特徴も見られます。
教育現場ではこの緘動を行動の遅れや怠慢と誤解し、「早くしなさい」と急かしてしまうことがありますが、これは逆効果です。この反応は生物学的な「闘争・逃走反応」の一部である「凍結反応」として説明される本能的な防衛反応であり、急かすことでさらなる焦りと硬直を招いてしまいます。
発症の背景にある複合的な要因
場面緘黙症の発症原因は単一ではなく、気質的要因、環境的要因、発達特性が複雑に絡み合っています。気質的な要因としては「行動抑制的気質(Behavioral Inhibition)」が知られており、新しい人物や状況に対して恐れや警戒心を抱きやすく、回避的な行動をとる傾向を指します。乳幼児期から慎重で変化を好まない傾向がある子どもが、入園や入学といった大きな環境変化に直面した際、不安の閾値を超えて場面緘黙を発症するリスクが高まります。
環境的な要因として転居や転校、いじめ、厳しいしつけなどが引き金になることもありますが、これらはあくまで「きっかけ」に過ぎません。親の育て方が直接的な原因ではないことは専門家が明確に否定しており、保護者が自責の念に駆られる必要はありません。本人の生まれ持った不安の感じやすさに焦点を当てた支援が重要とされています。
また、自閉スペクトラム症(ASD)や学習障害(LD)、感覚過敏を持つ子どもが、社会的場面での困難さや失敗体験から二次的に場面緘黙を発症することもあります。聴覚過敏のために教室のざわめきが苦痛で固まってしまうケースや、言葉の理解に時間がかかるために即答できず沈黙してしまうケースなどが報告されています。
場面緘黙症の就学先選択肢と通常学級・特別支援学級の特徴
場面緘黙症のある子どもの就学先としては、通常学級、通級による指導(通級指導教室)、特別支援学級の3つが主な選択肢です。それぞれの学級形態には法的な定義と運用上の特徴があり、子どもの状態に合わせた最適な環境選びが求められます。
通常学級で学ぶメリットと場面緘黙児が直面する課題
通常学級は1クラスあたり30人から40人程度の児童が在籍する、日本の公立小学校で最も一般的な学習環境です。集団行動や一斉授業が基本となり、文部科学省の学習指導要領に準拠したカリキュラムが一定のペースで進行します。
場面緘黙児にとって、大人数の環境は最もストレスフルな場となり得ます。日直や給食当番、音楽の歌唱、国語の音読、体育の号令など、人前で声を出すことが求められる場面が頻繁に訪れるためです。予測不可能な事態も多く発生するため、常に緊張状態を強いられる可能性があります。また、教師の目が届きにくい側面があり、発言しないことで「おとなしい子」として見過ごされ、支援の対象から漏れてしまうリスクも存在します。
一方で、知的な遅れがなく一定の集団適応能力がある場合、通常学級で過ごすことには大きな意義があります。地域の子どもたちと共に生活することで多くの社会的モデルを得ることができ、コミュニケーションの機会も豊富です。「自分は普通の子と同じ場所にいる」という所属感は自己肯定感の維持に重要な役割を果たし、過度な特別扱いがかえって本人の自尊心を傷つける場合もあります。
通級による指導が果たす「安全基地」としての機能
通級による指導は、通常学級に在籍しながら週に1〜8単位時間程度、障害の状態に応じた特別な指導を受けるシステムです。場面緘黙症は学校教育法施行規則において通級による指導の対象となる「情緒障害」に含まれています。指導の場は自校に設置された特別支援教室である場合と、他校の通級指導教室へ出向く場合があります。
通級での指導は教科の補習ではなく「自立活動」が中心となります。カウンセリング的な関わりを通じて不安や緊張を和らげ自己理解を深める「心理的な安定」の支援、教師との一対一や小集団でゲームや遊びを取り入れながら発話や対人交流を練習するコミュニケーション指導、挨拶や断り方、困った時の伝え方をロールプレイで学ぶソーシャルスキルトレーニング(SST)などが行われます。
通級指導教室は、通常学級から一時的に離れて安心して自分を出せる「安全基地(Secure Base)」としての機能を果たします。専門的な知識を持つ担当教員が通常学級の担任と連携し、具体的な合理的配慮の方法を助言するコーディネーター役を担うこともあり、学校全体での支援体制の核となる存在です。
特別支援学級(情緒障害学級)の少人数環境がもたらす安心感
場面緘黙症の場合に検討される特別支援学級は、主に「自閉症・情緒障害特別支援学級(情緒学級)」です。1クラスの定員は8名と少人数であり、担任教師が一人ひとりの状態にきめ細かく目を配れる環境が整っています。教室内のパーティション設置や静かな空間の確保といった環境調整も行いやすく、個別の教育支援計画に基づいたオーダーメイドの指導が可能です。
少人数環境の最大の強みは、対人不安が強い子どもの心理的なハードルを大きく下げることにあります。「ここなら失敗しても大丈夫」「先生は自分のことを分かってくれている」という安心感が得られやすく、通常学級では全く話せなかった子が支援学級の中では小声で話せるようになるケースも多く見られます。筆談やタブレット使用などの合理的配慮も、特別視されることなく自然に導入されやすい環境です。
基本的には通常学級と同じ教科書を使用し学習指導要領に準じた教育が行われますが、進度や方法は子どもの特性に合わせて柔軟に調整されます。通知表の評価基準も個別の目標達成度に基づく記述式が採用されることがあります。一方で、保護者が懸念する点として、学習進度の遅れや将来の進路(特に高校受験)への影響、一度入ると通常学級に戻りにくいのではないかという不安、「障害児」というレッテルを貼られることへの心配などが挙げられます。少人数であるがゆえに、クラスメートとの相性が悪い場合に逃げ場がなくなるリスクも考慮する必要があります。
場面緘黙症の就学先を選ぶ判断基準と「756号通知」の解説
就学先の選択において、文部科学省の通知や専門家の知見に基づく判断基準を理解しておくことは非常に重要です。最終的には保護者と本人の意向が尊重されますが、教育委員会との就学相談を経て決定が行われます。
文部科学省「756号通知」が示す特別支援学級の対象基準
2013年(平成25年)に出された文部科学省の通知(通称:756号通知)「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について」では、就学先決定のプロセスや基準が示されました。場面緘黙症が含まれる「情緒障害」の特別支援学級対象者について、「主として心理的な要因による選択性かん黙等があるもので、社会生活への適応が困難である程度のもの」と定義されています。
この定義の中で鍵となるのが「社会生活への適応が困難である程度」という文言の解釈です。具体的には、他人と関わって遊ぶことがその年齢段階に求められる程度に至っていない場合、集団生活のきまりを守って行動することが困難な場合、意思の伝達や指示理解が著しく困難な場合が該当します。つまり、単に「話せない」というだけでなく、集団生活や学習活動に著しい支障をきたしているかどうかが、通常学級か支援学級かを分ける大きな判断基準です。
就学先選択で確認すべき4つの判断チェックポイント
就学先の選択で迷った際には、4つの観点から子どもの状態を客観的に評価することが推奨されます。
第一のポイントは、非言語コミュニケーションの可否です。 話せなくても身振り手振り、指差し、首振り(肯定・否定)、筆談などで意思表示ができる場合は、通常学級でも周囲のサポートを得ながら生活できる可能性が高まります。一方で、これらの手段も一切使えず緘動の状態が強い場合は、通常学級での生活はサバイバルに近い過酷なものとなり、支援学級での手厚いケアが必要と判断される傾向にあります。
第二のポイントは、知的能力と学習の遅れです。 場面緘黙症児の多くは知的障害を伴いませんが、授業中に質問できない、分からないことを聞けないといった理由から学習性無力感に陥り、学力が低下するリスクがあります。知的な遅れがなく学習内容を理解できているのであれば通常学級に通級を組み合わせる選択肢が検討でき、学習に著しい遅れが見られる場合は個別指導が可能な支援学級が適している場合があります。
第三のポイントは、二次障害の有無と精神状態です。 すでに「学校に行きたくない」と登校渋りを見せている、家でも元気がなく表情が暗い、爪噛みやチックなどのストレスサインが出ている場合は、環境の負荷が高すぎると判断すべきです。この場合、学力の維持を優先するよりも、「学校に行ける」「安心して過ごせる」環境を確保し心のエネルギーを回復させることが最優先事項となります。
第四のポイントは、併存する発達特性です。 場面緘黙症に加えて感覚過敏(聴覚・触覚など)やASDの特性が強い場合、通常学級の騒がしさや予測不能な環境そのものが苦痛の原因となっている可能性があります。静かで構造化された支援学級の環境が本人の安定に寄与するケースは少なくありません。
就学相談の具体的な流れと保護者が知っておくべきプロセス
就学相談は入学前年の春から秋にかけて段階的に進められます。全体像を把握しておくことで、より効果的に子どもの状態を伝え、適切な就学先の決定につなげることができます。
最初のステップは、4月から6月頃にかけての申し込みと面談です。自治体の教育委員会や就学相談窓口に申し込み、生育歴や家庭での様子、保護者の希望を伝えます。ここで重要なのは、家庭でのリラックスした様子と外での固まってしまう様子のギャップを具体的に伝えることです。家庭での動画を持参して見せることも効果的な方法です。
次に、夏頃に専門家による検査が実施されます。WISC-Vや田中ビネー知能検査Vなどの知能検査および発達検査が行われますが、場面緘黙の子どもは検査者と話せないことが多いため、筆談や指差しでの回答が可能か、保護者同席での実施ができるかなどの事前調整が必要です。検査が受けられない状態(測定不能)となる場合もありますが、その「検査不能」という事実自体が重要な所見として扱われます。
秋頃には行動観察が行われます。就学相談員や心理士が在籍している幼稚園・保育園を訪問し、集団の中での様子を観察します。教育センターなどで集団遊びの観察が行われる場合もあり、「集団に参加しようとしているか」「指示を理解して動けているか」「固まっていないか」といった点が評価されます。
そして10月から1月頃に就学支援委員会での判定と決定が行われます。医師、教育職員、心理職などで構成される委員会が検査結果や観察記録をもとに「妥当な就学先」を判定しますが、この結果はあくまで「提案」です。最終決定権は保護者と本人にあり、判定と希望が異なる場合は再相談や体験入学などを通じて合意形成を図ることが可能です。
場面緘黙症の子どもに対する合理的配慮の具体的な実践方法
2016年に施行された障害者差別解消法により、公立学校における合理的配慮の提供が義務化されました。さらに2024年の改正では私立学校も対象に加わり、すべての学校で障害のある児童生徒への配慮が求められるようになりました。場面緘黙症における配慮の核心は、「話すことを強要せず、話さなくても参加できる代替手段を提供する」ことにあります。
教科ごとの合理的配慮と代替手段
国語の授業は場面緘黙児にとって最大の難関となります。音読については、クラス全員の前での個別指名を免除し、全員での一斉読み(斉読)への参加、休み時間に教師と一対一で読む方法、あるいは家庭で録音した音読データを提出して評価の対象とする方法が有効です。発表については、ノートに意見を書いて教師が読み上げる、黒板に答えを書く、指差しで選択肢から選ぶといった代替手段が活用されています。
音楽の授業では、歌唱の際に口パクでの参加を認めたり、声を出さずに立っているだけでも参加点を与える配慮があります。声を出す代わりに手拍子や打楽器の演奏を担当させることも有効です。リコーダーのテストについては、別室での実施や指使い(運指)のみの評価、録音提出などの方法が採用されています。
体育の授業では、準備体操の号令係の免除や、笛・ハンドサインでの代替が有効です。特に注意すべきは「二人組を作って」という指示であり、自分から声をかけられない場面緘黙児を孤立させる最大の要因となります。教師があらかじめペアを指定するか、教師自身がペアになるなどの配慮が不可欠です。緘動への対応としては、動き出しの遅れを急かさず、見本を見せてから参加させたり、最後尾からスタートさせたりする工夫が必要です。
外国語活動(英語)はコミュニケーションを目的とする授業が多く、苦痛を伴いやすい教科です。ペアでの会話練習はカードを用いたやり取りに変更する、タブレットの音声読み上げ機能を活用するなどの方法が有効です。
給食・トイレ・休み時間における生活場面の配慮
学習以外の場面でも、子どもの安全と尊厳に関わる重要な配慮が必要です。給食では「減らしてください」と言えない子どもに対して、最初から少なめに配膳し、足りなければジェスチャーでおかわりできる方式が推奨されます。完食指導は強迫観念を強める可能性があるため避けるべきであり、箸が止まってしまう場合はスプーンの使用を許可したり食事時間を長めに確保したりする配慮が有効です。
トイレに関する配慮は特に重要です。「行きたい」と言えずに失禁してしまう事故は高学年になっても起こり得る深刻な問題です。特定のカード(トイレカード)を机の隅に置けばトイレに行ってよいというルールを設ける方法や、休み時間に教師がさりげなく「トイレ大丈夫?」とYes/Noで答えられる形で声をかける方法が効果的です。
休み時間は、教室に居場所がない場合に図書室や保健室への避難を認めることが配慮となります。一人で過ごしていることを「問題」として扱わず、本人が安心しているなら見守る姿勢も大切な支援の一つです。
ICTの活用が広げる場面緘黙児のコミュニケーション
GIGAスクール構想により一人一台配布されたタブレット端末は、場面緘黙児にとって強力なコミュニケーションツールとなっています。自分の意見を文字入力して画面を見せたり、クラスのチャットルームに書き込むことで、発言と同等の形で議論に参加することが可能です。テキスト読み上げアプリを使えば、自分の代わりにタブレットに「話させる」こともできます。
高校入試の面接においても、タブレット端末の使用を認める合理的配慮の実績が増えています。質問に対してタブレットに入力して回答することで、本人の思考力や意欲を正当に評価する道が開かれました。
スモールステップによる段階的支援と家庭・学校の連携の進め方
場面緘黙症の改善に向けた支援の基本は、行動療法的なアプローチである「段階的エクスポージャー法(暴露療法)」です。不安の低い状況から徐々に高い状況へと階段を登るように、スモールステップで進めていきます。
具体的には、まず授業中に座っていられる、先生と目が合うといった非言語的参加の段階から始まります。次に先生の質問に頷きや首振りで答える身振り手振りの段階、筆談やカード提示の段階へと進みます。その後、仲の良い友達一人と小声で話せる段階、誰もいない教室で先生と話せる段階を経て、最終的にクラスの中で発表できる段階を目指していきます。決してステップを飛ばさないことが最も重要であり、本人が「これならできそう」と感じるレベルの課題を設定して成功体験を積ませることで、自己効力感を高めていきます。
保護者が学校と協力関係を築くための伝え方
保護者が学校に配慮を求める際には、「就学支援シート」や「サポートブック」を活用して、口頭だけでなく文書で子どもの特徴や配慮事項を伝えることが効果的です。文書には「してほしいこと」だけでなく「家での様子(強み)」や「感謝の気持ち」も記載することで、教師との協力関係が築きやすくなります。
配慮の依頼は抽象的な表現ではなく、「音読を録音提出にしていただければ、本人は評価を受けられますし、自信にもつながります」といった具体的かつ建設的な提案として伝えることがポイントです。学期ごとに面談を設定し、スモールステップの進捗を確認しながら、先生の負担を労いつつ子どもの小さな変化を共有し合うことが、継続的な支援の鍵となります。
場面緘黙症の長期的展望と「今、子どもが笑顔でいられる場所」という選択基準
場面緘黙症は、適切な介入がない場合に症状が成人期まで遷延するリスクがあることが明らかになっています。未治療のまま放置されると、慢性的なうつ状態や社会的不安、自己肯定感の極端な低下を招き、就労や社会参加に困難をきたす可能性があります。
しかし、早期に周囲が理解しプレッシャーを取り除いた環境でスモールステップを踏むことで、多くの場面緘黙児は改善に向かいます。完全に「外交的でおしゃべりな人」にならなくても、必要な場面で挨拶ができ、業務連絡ができ、筆談やメールなどのツールを駆使して社会生活を送れるようになることは十分に期待できます。重要なのは「話せるようになること」自体よりも、「自分は受け入れられている」「コミュニケーションが取れる」という自信を育てることです。
通常学級か支援学級かの選択に絶対的な正解はなく、子どもの状態は刻一刻と変化していきます。入学時は支援学級で安心感を土台にし高学年で通常学級へ転籍する子もいれば、その逆のパターンもあります。日本の教育制度では年度ごとの転籍(学級変更)が可能であり、一度の選択がすべてを決定づけるわけではありません。
判断に迷った時は、「今、子どもが笑顔でいられる場所はどこか」を最優先に考えてください。学習の遅れは後から取り戻すことができますが、損なわれた自尊心や心の健康を取り戻すには長い時間がかかります。場面緘黙症の子どもたちは豊かな内面世界と鋭い感性を持っています。彼らの「沈黙」は決して拒絶ではなく、不安から身を守るための盾です。学校、家庭、地域が連携し、その盾を少しずつ下ろせるような温かい環境を整えていくことが大切です。

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