療育手帳と場面緘黙症は、しばしば混同されがちですが、全く異なる概念です。お子さんの発達や障害について正しく理解し、適切な支援を受けるためには、それぞれの違いを明確に把握することが重要です。療育手帳は知的障害のある方を対象とした制度であり、場面緘黙症は特定の社会的場面で話せなくなる不安症の一つです。本記事では、療育手帳の判定基準や対象者、場面緘黙症の特徴、そして両者の関係性について詳しく解説します。知的障害の判定方法やIQの基準、場面緘黙症の方が利用できる支援制度についても具体的にご紹介しますので、お子さんや身近な方の支援を考える際の参考にしていただければと思います。適切な診断と支援につなげることで、本人の困難さを軽減し、可能性を最大限に伸ばすことができます。

療育手帳はどのような障害を持つ人が対象の手帳ですか?
療育手帳は、知的障害(知的発達症)のある方を対象とした障害者手帳です。地域によっては愛の手帳、愛護手帳など異なる名称で呼ばれることもありますが、基本的な目的は共通しています。この手帳は、児童相談所または知的障害者更生相談所において知的障害があると判定された方に交付されるものです。
療育手帳の対象となる知的障害には、3つの要件をすべて満たす必要があります。第一に、知能検査を実施しIQ値がおおむね70以下であること(自治体によっては75以下を基準)です。第二に、知的機能の障害により日常生活能力に支障が生じていることです。単にIQが低いだけでなく、実際の生活における困難さが認められる必要があります。第三に、発達期(おおむね18歳まで)にあらわれることです。成人してから事故や病気で認知機能が低下した場合は、知的障害ではなく別の障害として扱われます。
療育手帳制度は都道府県及び指定都市が実施する制度であり、国が法律で定めた制度ではありません。そのため、各自治体によって判定基準や等級区分、名称などに違いがあります。厚生労働省からの指導では、等級区分は重度を「A」、それ以外を「B」の2つに分けることとされていますが、実際には多くの自治体が独自にA1・A2・B1・B2など4つ程度に区分しています。
療育手帳を取得することで、特別児童扶養手当などの各種手当の受給、税制面での障害者控除、公共交通機関の運賃割引、公共施設の入場料割引、障害福祉サービスの利用、特別支援教育の対象、障害者雇用枠での就職など、様々な福祉サービスや支援制度を利用することができます。これにより、知的障害のある方が一貫した療育や援助を受けられるようにするとともに、日常生活や社会生活をより良く送ることができるようになります。
なお、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害の方でも、判定機関において知的障害を伴うと判定された場合には療育手帳が交付されます。一方、知的障害を伴わない発達障害の場合は、療育手帳ではなく精神障害者保健福祉手帳の対象となります。発達障害を持つ方は知的障害があるかどうかで取得できる手帳が変わるため、どの手帳を取得するか迷う場合にはお住まいの自治体の窓口に相談することが推奨されます。
場面緘黙症の人は療育手帳の対象になりますか?
場面緘黙症そのものは知的障害ではないため、知的障害を伴わない場合は療育手帳の対象とはなりません。この点を理解することは、適切な支援を受けるために非常に重要です。
場面緘黙症は、選択性緘黙とも呼ばれ、特定の社会的場面(学校や職場など)で話すことができなくなる精神疾患の一つです。家族を相手にすれば自由に話ができるのに、幼稚園や保育園、学校などの特定の社会的状況では声を出して話をすることができない状態を指しています。医学的には「不安症群」に分類されており、発達障害には含まれていません。
場面緘黙症の人は、話せる場面(自宅など)では流暢に話すことができ、言語能力自体は一般的な水準にあります。つまり、話す能力はあるのに、特定の状況で話せなくなるという症状です。現在のところ、場面緘黙症と知性や知能との関連はわかっておらず、場面緘黙症の人の中には知的に優れた人もいれば、平均的な人もいます。場面緘黙症だからといって知的障害があるわけではありません。
ただし、場面緘黙症の人の中には、知的障害を併せ持つ人もいます。その場合は、知的障害の程度によって療育手帳の対象となる可能性があります。また、場面緘黙症と自閉スペクトラム障害などの発達障害を併せ持ち、さらに知的障害もある場合には、療育手帳が交付されることになります。つまり、療育手帳の対象となるかどうかは、場面緘黙症そのものではなく、知的障害があるかどうかによって決まります。
知的障害を伴わない場合、場面緘黙症の方が障害者手帳を取得するとすれば、療育手帳ではなく精神障害者保健福祉手帳が該当します。精神障害者保健福祉手帳は、一定の精神障害(てんかんを含み、知的障害は除く)の状態にあり、長期にわたり日常生活や社会生活への制約がある方を対象とした手帳です。場面緘黙症は不安症として分類されており、症状の程度によっては精神障害者保健福祉手帳の取得が可能です。
精神障害者保健福祉手帳を取得することで、税制上の優遇措置、公共料金の割引、公共交通機関の割引、障害福祉サービスの利用、障害者雇用枠での就職などのメリットを受けることができます。手帳の有効期限は2年間であり、定期的な更新が必要です。また、法律上は場面緘黙症は発達障害者支援法の対象となっており、学校教育においては「情緒障害」に分類され、特別支援教育の対象となっています。
療育手帳の判定基準とIQの関係について教えてください
療育手帳の判定では、IQ値が重要な基準の一つとなりますが、それだけで機械的に決まるものではありません。本人の実際の生活状況や支援の必要性なども含めて総合的に評価されます。
療育手帳の対象となる知的障害の基準として、知能検査を実施しIQ値がおおむね70以下であることが求められます。自治体によっては75以下を基準としているところもあります。ただし、療育手帳交付のボーダーラインは自治体によって異なり、IQ70が基準の自治体もあれば、IQ75が基準の自治体もあります。判定基準が都道府県主体の制度であるため、統一の判定基準は現時点ではありません。
具体的な等級の例として、以下のような基準が用いられています。A判定(最重度)では、IQ20以下、またはIQ36から50で身体障害者手帳1級から3級を持っている方が該当します。A2判定(重度)では、IQ21から35程度の方が該当します。B1判定(中度)では、IQ36から50程度の方が該当します。B2判定(軽度)では、IQ51から75程度で、日常生活は一人ででき、情緒行動面で注意は必要ではなく、身体的に健康であり治療や看護の必要がない方が該当します。
療育手帳の判定では、本人には知能検査を受けていただき、本人やご家族、関係者などから生育歴や現在の日常生活の状況を詳しくお伺いし、障害の有無とその程度の判定を行います。知能検査には年齢に応じて様々な種類があり、代表的なものとしてウェクスラー式知能検査(WISC、WAIS)、田中ビネー知能検査、新版K式発達検査などが用いられます。これらの検査を通じて、言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度などの認知能力が測定されます。
手帳の等級については、知能検査により算出されたIQを原則としますが、社会生活能力、介護度等を考慮し、総合的に判断されます。そのため、IQだけで機械的に決まるものではなく、本人の実際の生活状況や支援の必要性なども含めて総合的に評価されることになります。
判定は18歳未満の場合は児童相談所で、18歳以上の場合は知的障害者更生相談所で行われます。判定には通常予約が必要であり、申請から判定結果が出るまでに数週間から数ヶ月かかることがあります。また、療育手帳は一度取得したら終わりではなく、定期的な再判定が必要です。これは、特に子どもの場合、発達に伴って知的機能や適応能力が変化する可能性があるためです。
地域差により、同じような知的機能を持つ人でも住んでいる地域によって手帳を取得できるかどうかが変わってしまうという不公平が生じています。このような状況を受けて、2024年以降、国による判定方法や認定基準の在り方の検討が進められており、将来的には全国どこでも公平に判定が受けられるような制度への改善が期待されています。
場面緘黙症の子どもが知能検査を受ける際の注意点は?
場面緘黙症の子どもが療育手帳の判定のために知能検査を受ける際には、特別な配慮が必要です。場面緘黙症の特性により、本来の知的能力を正確に測定できない可能性があるためです。
知能検査の多くは、言語的な指示に従って課題を行う必要があります。しかし、場面緘黙症の人は検査場面で話すことができないだけでなく、不安が高まって本来の能力を発揮できないことがあります。検査場面での緊張や不安が強いと、問題を理解していても答えられない、時間内に課題を完成できないといったことが起こり得ます。そのため、場面緘黙症の人の知能検査では、本来の知的能力よりも低い結果が出る可能性があります。
判定を受ける際には、事前に検査者に場面緘黙症であることを伝え、配慮を求めることが重要です。可能であれば、慣れた環境で検査を受ける、保護者の同席を認めてもらう、複数回に分けて検査を行うなどの配慮をお願いすることができます。検査者が場面緘黙症について理解していれば、本人の不安を軽減するような声かけや、非言語的な反応も評価に含めるなどの工夫をしてくれる場合があります。
また、話せないのと同時に身体が固まってしまうこともあります。これは「緘動(かんどう)」と呼ばれ、表情が硬くなったり、身体の動きが制限されたりする症状です。例えば、検査中に質問されたときに、答えられないだけでなく、頷くこともできない、筆記用具を持つことも困難になるといった状態になることがあります。このような状態では、本来持っている能力を示すことが極めて難しくなります。
場面緘黙症があるからといって、必ずしも知的障害があるわけではありません。もし知能検査で低い結果が出た場合でも、それが本来の知的能力を反映しているのか、場面緘黙症による影響なのかを慎重に判断する必要があります。現在のところ、場面緘黙症と知性や知能との関連はわかっておらず、場面緘黙症の人の中には知的に優れた人もいれば、平均的な人もいます。
検査結果の解釈においても注意が必要です。療育手帳の判定では、IQだけでなく社会生活能力や介護度等も考慮して総合的に判断されます。場面緘黙症により学校や社会的場面でのコミュニケーションに困難があっても、それは知的障害によるものではなく、不安症状によるものです。したがって、日常生活の様子や家庭での様子なども含めて、多角的に評価してもらうことが大切です。
お子さんが場面緘黙症で知能検査を受ける予定がある場合は、事前に医師や心理士に相談し、場面緘黙症の診断書や意見書を準備しておくことも有効です。これにより、検査者が適切な配慮をしやすくなり、より正確な評価につながります。
知的障害を伴わない場合、場面緘黙症の人はどの手帳を取得できますか?
知的障害を伴わない場合、場面緘黙症の方が障害者手帳を取得するとすれば、精神障害者保健福祉手帳が該当します。療育手帳は知的障害のある方を対象とした手帳であるため、知的障害がなければ対象外となります。
精神障害者保健福祉手帳は、一定の精神障害(てんかんを含み、知的障害は除く)の状態にあり、長期にわたり日常生活や社会生活への制約がある方を対象とした手帳です。場面緘黙症は医学的には不安症(不安障害)の一つとして分類されており、精神障害者保健福祉手帳の申請対象となり得ます。
精神障害者保健福祉手帳には、障害の程度が重いものから順に1級、2級、3級の障害等級があります。場面緘黙症の場合、その症状の重さや日常生活・社会生活への影響の程度によって等級が決定されます。重度で学校や職場でのコミュニケーションが全くできず、生活に大きな支障がある場合は2級、軽度から中等度で一定の配慮があれば生活できる場合は3級となることが考えられます。
申請には、お住まいの区市町村の障害福祉窓口に指定の申請書類を提出します。必要書類は、障害者手帳申請書と医師の診断書です。診断書は精神障害者保健福祉手帳用の専用様式があり、精神保健指定医または精神障害の診断や治療に従事する医師が作成したもので、初診日から6ヶ月以上経過した時点のものである必要があります。初診年月日から6ヶ月以上経過していないと、手帳の承認はされません。
精神障害者保健福祉手帳を取得することで、様々なメリットがあります。税制上の優遇措置として、所得税や住民税の障害者控除が受けられます。公共交通機関の割引も受けられ、鉄道、バス、タクシーなどで運賃の割引が適用されます。公共料金の割引として、自治体によっては水道料金や公営住宅の家賃の減免が受けられることもあります。
また、障害福祉サービスの利用が可能になります。就労移行支援や就労継続支援などのサービスを利用でき、障害者雇用枠での就職も可能になります。さらに、映画館、美術館、博物館などの施設で入場料の割引が受けられることもあります。
精神障害者保健福祉手帳の有効期限は2年間です。療育手帳の再判定が数年ごとであるのに対し、精神障害者保健福祉手帳は必ず2年ごとに更新が必要です。有効期限の3ヶ月前から更新手続きが可能で、更新の際も新規申請と同様に医師の診断書が必要となります。更新時には障害の状態が変化している可能性があるため、等級が変更されることもあります。
場面緘黙症の方は、手帳取得の有無にかかわらず、学校における特別支援教育の対象となります。通常の学級に在籍しながら通級指導教室で個別の支援を受けることができ、スクールカウンセラーや特別支援教育コーディネーターによる支援も受けられます。また、児童精神科や心療内科、精神科などで診断と治療を受けることができ、認知行動療法などの心理療法や必要に応じて薬物療法も受けられます。発達障害者支援センターや児童発達支援センターなどで相談や支援を受けることもできます。
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