場面緘黙症のお子さまに適した放課後等デイサービスの選び方は、「個別支援の質」「安心できる環境」「学校との連携体制」の3つを重視することがポイントです。放課後等デイサービスに通うことで期待できる効果としては、学校とは異なる環境でのコミュニケーション体験、ソーシャルスキルの向上、精神的な安定などが挙げられます。ただし、効果を最大限に引き出すためには、施設選びの段階で見学や体験を通じてお子さまとの相性を確認することが不可欠です。
場面緘黙症は、家庭ではふつうに話せるのに、学校や公共の場など特定の社会的場面になると話すことができなくなる症状が続く状態を指します。本人の意思とは関係なく話せなくなるという特徴があり、単なる人見知りや恥ずかしがり屋とは異なります。保護者の方にとって、お子さまに合った支援環境を見つけることは大きな課題となっています。この記事では、場面緘黙症の基礎知識から、放課後等デイサービスの具体的な選び方のポイント、期待できる効果、そして家庭でできる支援方法まで詳しく解説していきます。

場面緘黙症とは何か
場面緘黙とは、家庭などリラックスできる環境では普通に話せるのに、幼稚園や学校、公共の場など特定の社会的場面になると話すことができなくなる症状が続く状態のことです。選択性緘黙とも呼ばれており、医学的には「不安症群」に分類されています。
米国精神医学会が定めた「精神障害の診断と統計の手引き(DSM-5)」では、場面緘黙は「他の状況で話しているにもかかわらず、特定の社会的状況において、話すことが一貫してできない」状態と定義されています。重要なのは、これが性格上の問題で話さないのではなく、固い意志で話さないと決めているわけでもないという点です。言葉にしたいのにできなくて、本人も苦しんでいるのです。
環境に慣れても改善されにくいという特徴があり、単なる人見知りや恥ずかしがり屋とは明確に区別されます。「緘黙」という言葉は「口を閉じて何も話さないさま」という意味ですが、場面緘黙のお子さまは話したくないのではなく、話すことができない状態にあるのです。
場面緘黙症の主な症状について
場面緘黙症の症状は、特定の場面で話すことができなくなることが中心ですが、それだけにとどまりません。話せないのと同時に身体が固まってしまうこともあり、これは「緘動」と呼ばれています。一方で、自宅や他のリラックスできる場所では何の問題もなく話すことができます。
子どもに見られる具体的な症状としては、他の人に自分の意思を伝えられないことが挙げられます。たとえば、トイレに行きたいと言えない、教科書を貸してと言えないといった場面で困難を感じます。また、授業中に当てられても発言することができない、体育や外遊びなどで身体を動かすことができないといった症状も見られます。
症状の重症度には個人差があり、専門家によって3つの段階に分類されています。軽症型は、家庭内ではほぼ問題なくしゃべることができ、家庭外では発話はできないものの、筆談やスポーツなどで周囲とコミュニケーションを取ることができる状態です。中間型は、家庭内ではほぼ問題なくしゃべることができますが、家庭外では発話ができないのに加え、周囲とのコミュニケーションも拒否する状態であり、不安症状が見られます。重症型は、家族内でも発話できない場面があり、家庭外では身振り手振りを含めた他人とのコミュニケーションも拒否する状態です。不安やパニック症状が強く、緘動症状が出ることもあります。
場面緘黙症の原因と発症メカニズム
場面緘黙の明確な発症メカニズムは現時点では解明されていませんが、生まれつきの本人の気質と環境的な要因が複雑に関与し合うことで発症すると考えられています。
気質的な要因としては、生まれつき不安や緊張を感じやすい性質があると、場面緘黙を発症するリスクが高いと考えられています。特に、新しい環境や特定の場面に対して警戒心が強く、その場面を回避しようとする傾向がある場合に発症しやすいとされています。
環境的な要因としては、言語や文化が異なる地域へ移住するなど、言語習得の困難さとストレスにさらされた場合に場面緘黙になりやすいという報告があります。
ここで強調しておきたい重要な点があります。場面緘黙の原因は「親の育て方のせい」ではありません。以前は育て方が場面緘黙の原因になると言われていたこともありましたが、緘黙のある子どもの親と、緘黙のない子どもの親には違いがないことが研究によってはっきりしており、育て方に問題があるという説は撤回されています。
発症時期と有病率の実態
場面緘黙は2歳から5歳で発症するケースが多く、社会的な交流や発表などの機会が増える入園や入学後に症状がはっきりしてきます。男児よりも女児に多い傾向があり、発生率は0.2%から0.7%とされています。2019年の研究によると日本国内での有病率は0.21%と報告されており、数百人に1人の割合で発症すると考えられています。
場面緘黙は、発達障害者支援法の対象となっている発達障害の一つと定められており、教育分野や行政政策の上では支援の対象となっています。これは、適切な支援を受けることで症状の改善が期待できることを意味しています。
発達障害との関連性について
場面緘黙は医学上の定義では不安症(不安障害)の一種と考えられており、発達障害には含まれていません。しかし、発達障害と併存することがあります。
2000年にアメリカの学会で発表された説によると、発達障害や不安症は場面緘黙と併存しやすく、コミュニケーション障害、発達性協調運動症、軽度知的障害、自閉スペクトラム症などとの併存が見られる場合があります。特に自閉スペクトラム症を併存している緘黙症の人が多いという研究結果が報告されています。
ただし、発達障害の結果としてコミュニケーション能力が低下して「話さない」子とは、場面緘黙は異なります。場面緘黙の子どもは特定の場所以外のリラックスできる環境では流暢に話したり、言語能力自体は一般的な水準にあります。発達障害がある場合は、場面緘黙の治療を受けるだけでなく、特性に合わせたサポートが必要であるため、発達障害を支援している機関へ相談することが重要です。
放課後等デイサービスの基本と支援内容
放課後等デイサービスとは、障害のある子どもや発達に特性のある子どもが、放課後や長期休暇中に通うことができる福祉サービスです。学校とは異なる環境の中で、社会性やコミュニケーション能力の向上を図ることができます。
放課後等デイサービスは教室によって指導の方法が異なり、いくつかのタイプに分かれます。小学校の学童のように自由な時間が多いタイプでは、宿題をする時間がありますが、その他はおやつ、掃除、みんなでできるゲームなどをして過ごすことが多いです。一方で、療育やトレーニングに特化した教室もあります。場面緘黙のお子さまの場合、どのタイプが適しているかはお子さまの状態や希望によって異なります。
放課後等デイサービスで受けられる具体的な支援
放課後等デイサービスでは、さまざまな療育プログラムを通じて子どもの発達を支援します。特に場面緘黙のお子さまにとって重要となる支援内容について説明します。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、社会生活に必要なスキルを学んでいく支援です。コミュニケーション能力、対人関係スキル、問題解決能力などを高めることを目的としています。具体的には、あいさつ練習で他者と自然にコミュニケーションを始めるスキルを学んだり、ボードゲームやカードゲームを使って順番を待つ練習を行ったりします。
小集団でのプログラムでは、学校よりも少人数の環境で、リラックスした雰囲気での活動を通じてコミュニケーション能力の向上を図ることができます。大人数の環境が苦手な場面緘黙のお子さまにとって、少人数での活動は安心感を得やすい環境となります。
個別支援では、一人ひとりの特性やニーズに合わせた療育が行われます。場面緘黙の場合、どのような状況であればコミュニケーションが取りやすいかを一緒に探っていくようなサポートが行われます。
令和6年度ガイドライン改定と場面緘黙への配慮
令和6年7月に放課後等デイサービスガイドラインが改定されました。このガイドラインでは、場面緘黙(選択性かん黙)についても、障害特性や状態等に応じて必要な配慮を行うことが必要とされています。これにより、放課後等デイサービスにおける場面緘黙への支援体制がより明確に位置づけられました。
2025年10月には文部科学省の中央教育審議会初等中等教育分科会において、場面緘黙親の会からの意見発表が実施されました。この動きは場面緘黙症支援の歴史において重要な一歩となり、今後さらなる支援体制の充実が期待されています。
放課後等デイサービスの選び方で重視すべきポイント
放課後等デイサービスを選ぶ際に最も重要なポイントは「個別支援の質」です。この個別支援の質は、サービスの提供方法や内容、スタッフの専門性、環境など多岐にわたります。場面緘黙のお子さまの場合、特に注目すべき点がいくつかあります。
子ども一人ひとりに向き合う姿勢の確認
まず確認すべきは、子ども一人ひとりに向き合う姿勢があるかどうかです。場面緘黙のある子どもにも、どういった状況であればコミュニケーションが取りやすいかといったことを、子ども一人ひとりと向き合いながら一緒に探っていくようなサポートをしている施設を選ぶことが重要です。画一的なプログラムだけでなく、お子さまの状態に合わせた柔軟な対応ができるかどうかを見極めましょう。
安心できる環境づくりの重要性
安心できる環境づくりができているかも大切なポイントです。場面緘黙の子どもは一般的に不安が高い傾向にあるので、安心できる環境や小さなチャレンジができる状況を一緒に考えていくことが支援の第一歩になります。施設の雰囲気、スタッフの対応、他の利用者との関係性など、お子さまが安心して過ごせる環境かどうかを確認しましょう。
学校との連携体制の確認
学校との連携体制が整っているかどうかも重要な確認事項です。場面緘黙専門の相談室によると、放課後等デイサービスに場面緘黙に詳しいスタッフがいて、学校と連携して対応ができるならば、効果的な支援が期待できるとされています。学校での様子と放課後等デイサービスでの様子を共有し、一貫した支援を行うことで、より効果的な改善が期待できます。
見学時に確認すべき具体的なチェックポイント
放課後等デイサービスを選ぶ際には、必ず見学に行くことをおすすめします。調査によると8人中7人の保護者が利用前に施設の見学をしており、最多で7ヵ所の見学に行った方もいます。
施設の環境面では、定員の人数に対して十分な広さがあるか、安全面や衛生面の配慮があるか、感覚過敏などがある利用者も過ごしやすい環境かを確認します。室内照明や騒音などに配慮しているかどうかも、場面緘黙のお子さまにとっては重要なポイントです。
療育内容については、居場所・勉強・運動・SSTなど期待する内容が提供されているか、支援方法や時間の使い方が子どもに合いそうかを確認します。
スタッフについては、障害福祉に関する資格を持つ専門職の有無、どのような研修を受けているか、定期的に研修が行われているかをチェックします。保育士、社会福祉士、言語聴覚士などの専門職が在籍しているかどうかも重要です。
利用条件については、家や学校との距離、送迎の可否、駐車場の有無、利用時間・時間帯、週何回・何曜日に利用できるか、振替や回数変更の融通がきくか、祝日・長期休暇時に利用できるか、お弁当・トイレなどのフォローを頼めるかを確認します。
体験利用で相性を確かめることの重要性
見学だけでなく、体験利用をすることも重要です。体験利用をすることで、子どもがその施設でどのように過ごすのかを直接観察できます。他の子どもたちやスタッフとのやり取りを目の当たりにすることで、「楽しさ」や「安心感」を把握することができます。
子どもの能力を伸ばす最大の鍵は、子ども自身が楽しく前向きに取り組めることです。「楽しい!」「できた!」「もっとやりたい!」というイキイキした姿を見ることができる施設を選ぶようにしましょう。
施設で実際に過ごすのは子どもですから、その施設と子どもの相性を確認することが最も重要です。子どもが安心して通うことができなければ、その施設で過ごす時間が子どものストレスになりかねません。
場面緘黙の子どもに適した施設の特徴
場面緘黙のお子さまに適した放課後等デイサービスには、いくつかの特徴があります。
まず、無理に話すことを求めない施設であることが重要です。コミュニケーションを取る際には言葉を用いない非言語的コミュニケーションを取り入れるなどの工夫ができる施設を選びましょう。たとえば、「絵や文字のカードを使う」「筆談でやり取りをする」などの方法を柔軟に取り入れている施設が望ましいです。
スモールステップの考え方を理解している施設も重要です。一気に症状を改善させるのではなく、段階的な支援を行い、無理せずにスモールステップを踏んでいく施設を選びましょう。
また、少人数制のプログラムを提供している施設も検討に値します。大人数の環境よりも、小集団での活動の方が場面緘黙の子どもにとって安心できる場合があります。
探し始める時期の目安
放課後等デイサービスを探し始める時期について、調査によると全体の6割が年長時に探し始めたという結果でした。早めに情報収集を始めることで、複数の施設を見学し、子どもに合った施設を見つける時間的な余裕が生まれます。
決定する前に、インターネットでもしっかり情報を集め、相談できる支援員を探しておくことをおすすめします。そして、必ず事前に親子で見学や体験に行ってください。
放課後等デイサービスで期待できる効果
放課後等デイサービスに通うことで、場面緘黙のお子さまにはさまざまな効果が期待できます。
学校とは異なる環境でのコミュニケーション体験
学校では話せなくても、放課後等デイサービスの雰囲気であれば少しずつコミュニケーションが取れるようになる可能性があります。学校とは異なる環境、異なる人間関係の中で、お子さまが安心してコミュニケーションを試みることができる場となります。
ソーシャルスキルの段階的な向上
ソーシャルスキルトレーニングを通じて、社会性やコミュニケーション能力を段階的に高めていくことができます。あいさつの練習、順番を守る練習、協力して何かを成し遂げる活動などを通じて、対人関係のスキルを身につけていきます。これらのスキルは、学校生活や将来の社会生活においても役立つものです。
精神的な安定と居場所の確保
安心できる居場所ができることで、子どもの精神的な安定につながります。学校生活でのストレスを和らげる効果も期待できます。家庭と学校以外に、自分を受け入れてくれる場所があるということは、お子さまにとって大きな支えとなります。
効果を高めるためのポイントと注意点
放課後等デイサービスの効果を高めるためには、いくつかのポイントがあります。
学校との連携が不可欠
場面緘黙専門の相談室によると、「いくら放デイが楽しくても、『学校で話せる』ことにつながらなければ、緘黙症状改善のための効果は高いとは言えません」と指摘されています。放課後等デイサービスに場面緘黙に詳しいスタッフがいて、学校と連携して対応ができる場合は、しっかりと計画を立てて練習に取り組むことで効果が期待できます。
本人の意思を尊重することの大切さ
スモールステップの練習で最も重視されるのは「本人の意思」です。どんなに上手くいきそうな練習の計画でも、本人自身がやりたくないことであれば上手くはいきません。お子さまの気持ちを聞きながら、無理のないペースで進めていくことが大切です。
放課後等デイサービスだけに頼りすぎないこと
放課後等デイサービスを利用する際には、いくつかの注意点があります。放課後等デイサービスだけに頼りすぎないことが重要です。専門家によると、「放課後等デイサービスに通うよりも友だちと遊ぶ方が、症状改善の近道になることは多い」とも述べられています。放課後等デイサービスはあくまで支援の一つであり、家庭での関わりや学校との連携、友人との交流など、総合的な支援が必要です。
支援のしすぎに注意
支援のしすぎで「話さなくても困らない」状態になってしまうことにも注意が必要です。すべてを代弁したり、先回りして対応したりしすぎると、子ども自身がコミュニケーションを取る必要性を感じなくなってしまうことがあります。適度なサポートと、お子さま自身がチャレンジする機会のバランスを大切にしましょう。
二次障害を予防するための早期支援
場面緘黙症に気づかず適切な支援を受けられなかった子どもは、生きづらさを抱えたまま生活を続けるうちに、二次障害としてうつ病などを発症する可能性があります。早期に相談・サポートを開始することが重要です。
場面緘黙症は早めのサポートにより症状が改善できるといわれています。専門家は「適切な対応によって、場面緘黙は必ず改善します」と述べており、早期発見・早期支援が大切です。
家庭でできる支援の方法
放課後等デイサービスと並行して、家庭での支援も重要な役割を果たします。
基本的な心構えについて
家庭での支援において、まず理解しておくべきことは、場面緘黙の原因は親の育て方ではないということです。しかし、症状の改善には保護者の理解や子どもへの接し方の工夫は必要です。
家庭が安心できる環境であることが大切です。そして「安心して失敗でき、リカバリー体験を積める環境」であることが重要です。子どもの強みに注目し、子どもの好きなこと、できそうなことに、家庭内でも少しずつチャレンジさせてあげましょう。
話すことを強要しないことの大切さ
親が「無理に話させようとしない」「話さなくても代弁しすぎない」など、適切な関わり方を学ぶことが重要です。話さないことを責めたり、話すよう強要するのはやめましょう。お子さまは話したくないのではなく、話すことができない状態にあることを理解し、その気持ちに寄り添うことが大切です。
スモールステップでのチャレンジ
子どもの「活動」「場所」「人」の不安レベルを把握し、不安レベルが小さい順からスモールステップでチャレンジしていきます。発話だけに注目するのではなく、コミュニケーション体験を少しずつ積んでいくことが大切です。
達成感と自信を育むこと
「やってみたらできた!」と子ども自身が達成感を味わえるようにします。自信をつけることで、次のチャレンジに向かう力が養われていきます。小さな成功体験を積み重ねることが、長期的な改善につながります。
子どもの気持ちを聞くこと
「学校でどんなときに困る?」など、安心できる場で本人の気持ちを言葉にしてもらいましょう。お子さまがどのような場面で困難を感じているかを理解することで、より適切なサポートができるようになります。
家庭と学校の連携
家庭と学校での情報共有、連携を図ることが重要です。支援方法について、家庭と学校で話し合えていない場面も多いため、連絡帳などを使用してこまめに情報交換を行いましょう。学校と密接に連携し、本人の意思も確認しながら対応していくことで、緘黙症状改善に向けた流れを作り出していくことができます。
場面緘黙について学ぶこと
まず家族や教師が場面緘黙を理解することが大切です。そして本人が場面緘黙について知識が得られるようサポートすることも重要です。お子さんに、絵本「なっちゃんの声」や書籍「どうして声が出ないの?」を読んであげることも推奨されています。
場面緘黙症の治療法と克服のアプローチ
場面緘黙症の改善に向けては、放課後等デイサービスでの支援に加えて、専門的な治療法についても理解しておくことが役立ちます。
スモールステップの考え方
場面緘黙の治療において、「スモールステップ」という考え方が大切にされています。一気に症状を治すのではなく、段階的に治療や訓練を行い、無理せずに進んでいくという考え方です。
「話しやすい条件」を作り出すときによく使われるのが、場面を「人」「場所」「活動(すること)」に分解して、組み合わせる方法です。「活動」には、「会話」「雑談」の他にも、「音読」「挨拶」「しりとり」などの声を出す活動があります。また「筆談」「メール」のような活動も組み合わせることができます。
主な治療法について
海外の実践的研究では、場面緘黙の治療は行動療法が有効とされています。シェイピング法は、目標となる行動をスモールステップに分けて、簡単なものから取り組んでいく方法です。シャボン玉や口笛などの口を動かす遊びから始めたり、しりとりなどの音声を発しやすい遊びから始めたりします。刺激フェイディング法は、話せる場面から徐々に話せない場面へと環境を移行していく方法です。エクスポージャー法(暴露療法)は、不安を感じる場面に少しずつ慣れていく方法です。
専門機関での治療
場面緘黙を疑った場合は、精神科や心療内科、メンタルクリニックを受診し、専門医に診察を受けるようにしましょう。子どもの場合は、発達外来や児童精神科が適しています。
カウンセリングやセラピーを利用することも有効で、特に認知行動療法(CBT)は場面緘黙の克服に効果的とされています。大人になっても「治らない」わけではなく、心理療法やカウンセリング、不安への対処スキルを身につける訓練などが有効とされ、適切な理解と支援によって症状の改善は十分期待できます。
自己理解の重要性
症状改善の第一歩として、自分の緘黙症の特徴を知ることが大切です。自分がどのような状況・環境において、どの程度の緘黙症が現れるのか整理し、無理な状況や可能な状況、誰と話せるかどうかなど自分を詳しく把握することが大切です。
普通にコミュニケーションが取れる場面、一旦紙に書いて整理すれば可能な場面、どうしても無理な場面といった形で段階を分け、誰となら話せる、どこなら話せるというのを地道に把握していきましょう。
相談先と支援機関の活用方法
場面緘黙のお子さまを支援するためには、さまざまな相談先や支援機関を活用することが有効です。
医療機関への相談
場面緘黙の相談ができる医療機関には、精神科、心療内科、小児科(発達外来)、児童精神科などがあります。人によっては、場面緘黙だけ発症しているのか、それとも発達障害を合併しているのか判断することが必要なため、専門家による診察が重要です。
教育・福祉の相談窓口
教育相談センターや発達障害者支援センター、児童相談所などで相談することができます。自治体が運営する保健センターでも相談を受け付けています。
場面緘黙は「情緒障害」に含まれており、「特別支援学級」と「通級による指導」の対象となっています。学校の特別支援教育コーディネーターに相談することも一つの方法です。
当事者・保護者の会の活用
「場面緘黙親の会」などの当事者団体もあります。LINEオープンチャットでは、悩みや不安な気持ちを分かち合うだけでなく、うまくいった対応の事例や、先生へ相談する際のコツなども情報共有されています。同じ悩みを持つ保護者同士でつながることで、精神的な支えにもなります。
場面緘黙についてよくある疑問への回答
場面緘黙について、保護者の方からよく寄せられる疑問について説明します。
親の育て方が原因なのかという疑問
親の育て方が原因ではありません。近年の研究では育て方による説は撤回されています。緘黙のある子どもの親と、緘黙のない子どもの親には違いがないことが研究によって明らかになっています。場面緘黙は、生まれつきの気質と環境的な要因が複雑に関与して発症すると考えられています。
トラウマが原因になるかという疑問
トラウマが場面緘黙の直接的な原因であるというエビデンスはありません。現在の研究では、ほとんどの子どもにトラウマは関係しないことがわかっています。ただし、不安を感じやすい気質の子どもが、何らかのストレスフルな出来事をきっかけに症状が顕在化することはあります。
家では話せるから大丈夫かという疑問
家庭で話せることは良いことですが、学校や社会的な場面で話せないことは本人にとって大きなストレスになっている可能性があります。保護者は子どもの状態が家庭とは違うということを知らない場合も多いです。学校や園と情報を共有し、子どもがどのような場面で困っているかを把握することが大切です。
成長すれば自然に治るかという疑問
場面緘黙は「様子を見るだけ」で自然に改善するものではないと専門家は指摘しています。早期に適切な支援を受けることで改善が期待できますが、支援なしに放置すると症状が長期化したり、二次障害を発症するリスクがあります。専門家は「適切な対応によって、場面緘黙は必ず改善します」と述べており、早めの相談と支援開始が推奨されています。
放課後等デイサービスで改善するかという疑問
放課後等デイサービスは、場面緘黙の改善を支援する場の一つになり得ます。ただし、専門家によると「いくら放デイが楽しくても、『学校で話せる』ことにつながらなければ、緘黙症状改善のための効果は高いとは言えません」とも指摘されています。放課後等デイサービスに場面緘黙に詳しいスタッフがいて、学校と連携して計画的に支援を行う場合に効果が期待できます。放課後等デイサービスだけに頼るのではなく、家庭や学校との連携、友人との交流など、総合的な支援が重要です。
周囲の子と比較してしまうときの対処法
「同年の子はちゃんと話せているのに」など、周囲と比べてしまう気持ちは自然なことですが、そのような言葉を子どもに伝えることは避けましょう。比較されることで子どもは自信を失い、ますます緘黙が悪化することがあります。子どものペースを尊重し、小さな進歩を一緒に喜ぶ姿勢が大切です。
まとめ
場面緘黙症のお子さまのための放課後等デイサービス選びは、お子さまの特性やニーズを十分に理解した上で行うことが大切です。
場面緘黙について正しく理解することが第一歩です。場面緘黙は不安症群に分類され、本人の意思とは関係なく話せなくなる症状です。親の育て方が原因ではありません。
放課後等デイサービスを選ぶ際は、子ども一人ひとりに向き合う姿勢があるか、安心できる環境が整っているか、学校との連携体制があるかを重視しましょう。必ず見学・体験を行い、お子さまとの相性を確認することが重要です。
放課後等デイサービスの効果を高めるためには、学校との連携が不可欠です。また、家庭での支援も継続して行い、総合的なサポート体制を整えることが大切です。
場面緘黙症は、早期発見・早期支援により改善が期待できます。専門家は「適切な対応によって、場面緘黙は必ず改善します」と述べています。一人で抱え込まず、医療機関や教育・福祉の相談窓口、当事者団体など、さまざまな支援を活用しながら、お子さまに合った支援を見つけていきましょう。
スモールステップの考え方を大切に、焦らずにお子さまのペースに合わせて進んでいくことが、長期的な改善への道となります。

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