社交不安障害を家族に理解してもらう7つの説明方法と伝え方のコツ

社交不安障害

社交不安障害を家族に理解してもらうためには、病気の特性を踏まえた説明の仕方が重要です。社交不安障害は家庭内では症状が現れにくいという特徴があるため、家族から「普通に見える」と誤解されやすく、理解を得ることが難しい精神疾患のひとつとなっています。しかし、具体的な症状の説明や書籍の活用、医師との同行受診など、適切なアプローチを取ることで家族の理解を深めることは十分に可能です。

この記事では、社交不安障害がなぜ家族に理解されにくいのか、その理由を詳しく解説するとともに、家族への効果的な説明の仕方や、家族にお願いしたいサポートの内容、治療法や相談窓口についても網羅的にお伝えします。社交不安障害に悩む方やそのご家族にとって、理解を深めるための一助となれば幸いです。

  1. 社交不安障害とは何かを正しく理解する
    1. 社交不安障害の主な症状について
    2. 発症時期と病気の経過
    3. 社交不安障害の原因
  2. 社交不安障害が家族に理解されにくい理由
    1. 家庭内で症状が出にくいという特性
    2. よくある誤解と偏見について
    3. 精神疾患全般に対する社会的偏見
  3. 家族への効果的な説明の仕方
    1. 説明する前に持っておきたい心構え
    2. 病気であることを明確に伝える方法
    3. 具体的な症状を説明する方法
    4. 家では症状が出にくい理由を説明する方法
    5. 自分の取扱説明書を作る方法
    6. 書籍を活用する方法
    7. 一緒に受診する方法
    8. してほしいことを具体的に伝える方法
    9. 説明する際に避けたいこと
  4. 家族にお願いしたいサポートの内容
    1. 性格の問題と誤解しないでほしい
    2. 励ましすぎないでほしい
    3. 本人のペースを尊重してほしい
    4. できていることに目を向けてほしい
    5. 傾聴してほしい
    6. 過干渉や非難を避けてほしい
  5. 社交不安障害の治療法について
    1. 薬物療法の種類と特徴
    2. 精神療法(心理療法)について
    3. 治療の効果について
    4. 治療における家族の役割
  6. 社交不安障害を放置するリスク
    1. うつ病との併発リスク
    2. その他の併発リスク
    3. 早期治療の重要性
  7. 自分でできるセルフケアの方法
    1. 認知行動療法のセルフヘルプ
    2. 生活習慣の改善
    3. セルフケアにおける注意点
  8. 社交不安障害の相談窓口と支援機関
    1. 公的な相談窓口について
    2. 医療機関について
    3. その他の相談窓口
  9. 当事者の体験から学ぶ社交不安障害との向き合い方
    1. 発症から治療までの経験
    2. 家族への告白の経験
    3. 治療と回復の経験
  10. 理解を得るために大切なこと
    1. 伝え続けることの重要性
    2. あなたは一人ではない
    3. 家族の方へ伝えたいこと

社交不安障害とは何かを正しく理解する

社交不安障害とは、他人から注目される状況において強い恐怖や不安を感じる精神疾患です。正式名称はSAD(Social Anxiety Disorder)であり、「社交恐怖」「社交不安症」とも呼ばれています。日本では以前から「対人恐怖症」「赤面恐怖症」「あがり症」などの名称で知られてきました。

この病気は決して珍しいものではありません。海外の研究では7人に1人が社交不安障害であるという報告があり、生涯有病率は約12%に達します。不安障害の中では最も患者数が多く、こころの病気全体でも発症頻度は3位に入っています。10人に1人から2人がかかるともいわれており、身近な精神疾患のひとつといえます。

重要なのは、社交不安障害は単なる「性格」や「気の持ちよう」ではなく、脳内の神経伝達物質の働きや心理的要因が関係する、れっきとした精神疾患であるということです。以前は性格の問題とされることもありましたが、現在では適切な治療によって回復が可能な病気として認識されています。

社交不安障害の主な症状について

社交不安障害の症状は、精神的な症状、身体的な症状、行動面の症状の3つに大別されます。

精神的な症状としては、人前で話す場面や発表をする場面で強い緊張が生じること、初対面の人に会うときや雑談をするときに強い緊張を感じること、恥ずかしい思いをするのではないかと常に不安を感じること、周囲から否定的に評価されるのではないかという恐怖があること、自分は失敗するに違いないという強い思い込みが生じることなどが挙げられます。

身体的な症状としては、手の震えや声の震え、赤面、発汗、動悸、呼吸困難感、腹痛や吐き気、めまいなどがあります。これらの症状は自分の意志でコントロールすることが難しく、本人にとって非常につらいものとなっています。

行動面の症状としては、緊張する場面を極力回避しようとすること、人前での食事を避けること、電話に出ることを避けること、会議や発表の機会を避けることなどがあり、回避行動が通常の場面にまで拡大していくことがあります。これらの症状により、社会生活に多大な支障をきたすケースも少なくありません。症状が進むと、学校や職場に行けなくなったり、外出すら困難になったりすることもあります。

発症時期と病気の経過

社交不安障害の発症年齢の中央値は13歳前後であり、多くが8歳から15歳の学童期に集中しています。思春期に発症することが多く、自意識が高まる時期と重なることが特徴的です。

治療せずに放置してしまうと、進学、就職、結婚など人生の大切な場面での制約がかかりやすくなります。また、治療開始が遅くなればなるほど、症状が重症化および慢性化し、うつ病やアルコールなどへの薬物依存など、他のこころの病気を合併しやすくなることが知られています。

社交不安障害の原因

社交不安障害の原因はまだ完全には解明されていませんが、複数の要因が関係していると考えられています。

脳の機能的要因としては、最近の研究でセロトニン神経系とドーパミン神経系の機能障害により発症するのではないかと考えられています。また、脳内の不安や恐怖反応の中枢である扁桃体などの過敏性が関係しているとも言われています。

遺伝的な気質が関係している可能性も指摘されており、環境的要因として育成環境や過去のトラウマ体験なども発症に影響を与えることがあります。性格的な面では、シャイ、内気、まじめ、自分に厳しいタイプは社交不安障害を発症しやすい傾向があるとされていますが、これは「性格のせい」ということではなく、これらの特性を持つ人が発症しやすいという傾向を示しているに過ぎません。

個人の頑張りや周囲の励ましだけでは克服が難しいことも多く、専門的な治療が必要な病気なのです。

社交不安障害が家族に理解されにくい理由

社交不安障害が家族に理解されにくい最大の理由は、家庭内では症状が現れにくいという特徴にあります。この病気の特性を知ることで、なぜ理解を得ることが難しいのかが見えてきます。

家庭内で症状が出にくいという特性

「内弁慶」という言葉があるように、社交不安障害の方は、両親や家族にだけは強く自己主張できる場合が多いです。ずっと一緒に暮らしている家族に対しては緊張しないため、外での様子を家族は知ることができません。

その結果、「家ではこんなに自己主張が強い子が社交不安障害であるはずがない」と信じてもらえないことが多いのです。家族からすると、本人がそこまで困っているとは思えないことが多いですが、それは家族の理解力の不足ではありません。病気の特性として、信頼関係が築けている相手には症状が出にくいという事実があるのです。

ある医師の体験談では、家族に症状を伝えても「見た感じ普通だけど冗談で言っているの?」という反応が返ってきたそうです。絶対に信頼関係が崩れないと思える相手に対しては発作が起きないため、家族には症状が理解されにくいのです。

よくある誤解と偏見について

社交不安障害に対しては、さまざまな誤解や偏見が存在します。

「性格の問題」という誤解があります。「あなたは内気な性格だから」「もっと積極的になれば」といった言葉は、社交不安障害の方にとって非常につらいものです。社交不安障害は性格の問題ではなく、治療可能な病気です。

「気の持ちよう」という誤解もあります。「気持ちの持ちようで治る」「考えすぎ」といった言葉も、病気への無理解から生まれます。社交不安障害は、意志の力だけで克服できるものではありません。

「怠けている」という誤解も見られます。社交不安障害について話しても病気だと理解されず、「性格、怠けている、楽してる」と思われがちです。しかし、本人は決して怠けているわけではなく、病気と闘っているのです。

「甘えている」という誤解もあります。「みんな緊張するものだ」「甘えているだけ」という言葉も、当事者を深く傷つけます。通常の緊張と社交不安障害の症状は、程度も性質も全く異なるものです。

精神疾患全般に対する社会的偏見

社交不安障害に対する理解の障壁には、精神疾患全般に対する社会的な偏見も影響しています。「心が弱いから病気になる」「家族が精神科に通ったら恥ずかしい」といった考えが、いまだに根強く残っています。

しかし、こころの病気は体の病気と同様に、適切な専門医による治療が必要不可欠な病気です。当事者や当事者家族も、精神疾患に対する無理解や誤解のために「内なる偏見」にとらわれてしまうことがあります。症状や治療等について不安を持つこともありますが、それらの多くは正しい知識によらない単なる先入観である場合が多いのです。

家族への効果的な説明の仕方

社交不安障害を家族に理解してもらうためには、適切な説明の仕方が重要です。ここでは、家族への効果的な説明方法について詳しく解説します。

説明する前に持っておきたい心構え

家族に社交不安障害について説明する前に、いくつかの心構えを持っておくことが大切です。

まず、一度の説明で完全に理解してもらうことは難しいかもしれないということを受け入れましょう。家族も、あなたが苦しんでいることを知らなかっただけで、理解しようとする気持ちはあるはずです。焦らず、少しずつ理解を深めてもらうことを目指しましょう。

また、うまく話せるか不安な場合は、事前にメモを用意しておくことをお勧めします。伝えたいことを整理しておくと、緊張しても大切なことを伝え漏らさずに済みます。

病気であることを明確に伝える方法

まず、社交不安障害が「性格」ではなく「病気」であることを明確に伝えることが重要です。

「私は社交不安障害という病気を持っています。これは性格の問題ではなく、脳の機能が関係している医学的な病気です。10人に1人から2人がかかると言われている、決して珍しくない病気です。」

このように、病気としての位置づけを明確にすることで、「気の持ちよう」「怠け」といった誤解を防ぐことができます。

具体的な症状を説明する方法

「どんなときに」「どんな症状が出るのか」を具体的に説明しましょう。

「人前で話すとき、手が震えて止まらなくなります」「初対面の人と話すとき、頭が真っ白になって言葉が出てきません」「会議に出席しなければならないと思うだけで、前日から眠れなくなります」

具体的な症状を伝えることで、家族はあなたの苦しみをより理解しやすくなります。

家では症状が出にくい理由を説明する方法

「家族の前では症状が出にくいのは、信頼関係があるからです。だから私が普通に見えるかもしれませんが、外ではとても苦しい思いをしています。」

この説明により、「家では普通なのに」という疑問に答えることができます。家族にとって、この点を理解することは非常に重要です。

自分の取扱説明書を作る方法

自分の症状や、どんなサポートがほしいかを書いた「自分の取扱説明書」のようなものを作り、それを読んでもらうという方法があります。

口頭で説明するのが難しい場合、文章にすることで自分の思いを正確に伝えることができます。また、家族も自分のペースで読むことができるため、理解を深めやすくなります。

書籍を活用する方法

社交不安障害についてわかりやすく書かれた書籍を、「少しでもいいので、読んでみて」と家族に渡すことも効果的です。

ある当事者の方は、後期高齢者の両親に理解してもらおうと書籍を見せようとしましたが、最初は「字が小さすぎて見えない」「時間がない」などと言われ、読んでもらえませんでした。そこで、一番読みやすそうな書籍を選んでお父様に渡したところ、本当にゆっくりと読んでくれたそうです。専門家が書いた本を読むことで、家族は病気についての正しい知識を得ることができます。

一緒に受診する方法

可能であれば、家族と一緒に精神科や心療内科を受診し、医師から直接説明を受けることが最も効果的です。

専門家である医師の説明を聞くことで、家族は病気の深刻さや、どのようなサポートが必要かを理解しやすくなります。また、医師の診断書を用いて家族に説明すると、「医師も認める病気である」という認識を家族に持ってもらえる可能性が高まります。

してほしいことを具体的に伝える方法

「無理に克服しなさい」と言われるとプレッシャーになるため、「見守ってほしい」と具体的に伝えることが大切です。

「励ましてくれる気持ちはうれしいけれど、『頑張れ』と言われるとプレッシャーになってしまいます。できれば、そっと見守っていてほしいです。」「治療には時間がかかります。焦らず、私のペースで進めさせてください。」

このように、具体的にどんなサポートが必要かを伝えることで、家族も対応しやすくなります。

説明する際に避けたいこと

以下のような伝え方は、誤解を招きやすいので避けましょう。感情的になって訴えることは控え、冷静に伝えることでより理解されやすくなります。自分を責めるような言い方をすることも避けましょう。病気は自分のせいではありません。一度に多くの情報を伝えようとすることも避け、少しずつ理解の度合いに合わせて伝えることが重要です。

家族にお願いしたいサポートの内容

社交不安障害の回復には、家族の理解とサポートが大きな力となります。ここでは、家族にお願いしたい具体的なサポート内容について解説します。

性格の問題と誤解しないでほしい

社交不安障害は、性格の問題ではありません。脳内の神経伝達物質の働きや心理的要因が関係する、治療可能な精神疾患です。「気の持ちよう」で治るものではないことを理解してもらうことが重要です。

励ましすぎないでほしい

「もっと頑張りなさい」と励まされると、本人は追い詰められてしまいます。社交不安障害を克服するには、少しずつ不安な場面を乗り越える必要があり、「本人の心の準備」を大切にすることが重要です。

本人のペースを尊重してほしい

治療には時間がかかります。焦らせたり、急かしたりせず、本人のペースに合わせて見守ることが大切です。回復の速度は人それぞれであり、無理をさせることは逆効果になることがあります。

できていることに目を向けてほしい

社交不安障害の方は自尊心の低下があり、できていないことやうまくいかないことに意識が向かいがちです。「今日は電話に出られたね」「会議に参加できたね」など、できていることを認めてあげることが大きな励みになります。

傾聴してほしい

不安を訴えている際には、「なぜ、そういうことを考えるのか?」や「気にしないで大丈夫だよ」といった助言は控え、むしろ聴き手として振る舞い、「私はあなたを支えます」というメッセージを伝えることが重要です。

過干渉や非難を避けてほしい

家族や周囲の過干渉、非難は回復を遅らせることがあります。心配な気持ちはわかりますが、適度な距離感を保つことも大切です。

社交不安障害の治療法について

社交不安障害は、適切な治療によって回復が可能な病気です。ここでは、主な治療法について詳しく解説します。

薬物療法の種類と特徴

薬物療法では、主に以下の薬が使用されます。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬) は、社交不安障害の薬物療法で最も広く使用されている薬です。脳内の神経伝達物質であるセロトニンの働きを高め、不安や緊張感を軽減します。日本ではフルボキサミン、パロキセチン、エスシタロプラムが保険適応となっています。安定した改善が期待できます。

抗不安薬(ベンゾジアゼピン系) は、即効性があり、不安感や焦燥感を和らげるのに確実な効果があります。SSRIの効果が出るまでの間、併用されることがあります。ただし、依存を起こす可能性があるため、長期使用は推奨されていません。

βブロッカー は、緊張で交感神経の働きが活発になり、手足や声のふるえ、動悸、発汗が出る場合に使用されます。交感神経の働きを抑えて身体反応をやわらげてくれます。プレゼンや発表の前など、緊張の場面の30分から2時間前に服用するように処方されることがあります。

精神療法(心理療法)について

認知行動療法 は、社交不安障害の精神療法としてよく選択されます。考え方を見つめ直し、固まって狭くなった視野や行動を修正していきます。

社交不安障害の方には「周囲に自分は否定的に評価され失敗をする」という誤った認知があるため、この認知の誤りに気づき、適切な考えに置き換える「認知再構成」と呼ばれる認知療法が有用です。また、不安や恐怖を引き起こす状況に段階的に向き合っていく「暴露療法」(エクスポージャー)も効果的です。

治療の効果について

社交不安障害は、一般的に薬物療法と精神療法などを組み合わせて約1年間の治療をおこなうと、およそ80%の方が治癒するとされています。

社交不安障害はたくさんの人が苦しみ、治療によって克服していく可能性の高い病気です。医師の中にもこの病気の経験者がおり、現在第一線で活躍している人でも、昔はこの病気で苦しんでいたという人が意外に多いのです。

治療における家族の役割

治療は医師だけが、あるいは患者さんだけが頑張ってもうまくいきません。治療者、患者さん、家族の三者がそれぞれ必要な役割を果たすことで初めて治療が成立します。

家族の方にお願いしたいのは、患者さんの話を傾聴し、その不安や症状が非常につらいものだと理解を示すことです。そして、「私はあなたを支えます」というメッセージを伝え続けることが重要です。

社交不安障害を放置するリスク

社交不安障害を治療せずに放置すると、さまざまなリスクが高まります。ここでは、放置することで生じるリスクについて解説します。

うつ病との併発リスク

社交不安障害を放置すると、うつ病を併発するリスクが高まります。特にうつ病を含む気分障害を合併している社交不安障害の割合は6割にのぼるという報告があります。また、社交不安障害とうつ病を合併されている方では、8割程度の方が先に社交不安障害を発症していたというデータもあります。

社交不安障害の症状には、苦手な場面をなんとか乗り越えても、終わったあとにグルグルと考え込んでしまう「事後の反すう」や「1人反省会」が強くみられます。事後の反すうでは、うまくいったところにはあまり目がいかず、ダメなところ探しをして、自責や自己嫌悪に陥ってしまいます。こうした自責や自己嫌悪によって、抑うつ気分が強くなり、うつ病を併発してしまうことも少なくありません。

その他の併発リスク

社交不安障害の方で他のこころの病気を併発している方は、全体の43.6%、半数近くに及ぶという研究もあります。併発しやすい疾患には、パニック障害、全般性不安障害、アルコール依存症、薬物依存などがあります。

不安を感じやすい人ほど、連鎖的に複数の障害になることがあるといわれています。併発を防ぐためには、不安の連鎖を断って、症状が軽い段階で早めに医師の診断を受けて治療を受けることが重要です。

早期治療の重要性

社交不安障害は、「失敗をひきずってしまう性格」「クヨクヨ考えてしまう性格」と、性格の問題ととらえ、長い間苦しんでいる方が多いです。しかし、まずは自分の症状を「性格」ではなく「病気」だと認識して早めに受診をすることが大切です。

「もう治らない」「性格だから仕方がない」とあきらめる前に専門家の門を叩くことが大事です。治療によって多くの方が回復しています。

自分でできるセルフケアの方法

社交不安障害には、自分で実践できるセルフケアの方法もあります。ここでは、具体的なセルフケアの方法について解説します。

認知行動療法のセルフヘルプ

認知行動療法は本来、専門家と一緒に進めることが多いですが、セルフヘルプとして自分で実践することも可能です。セルフヘルプには、気軽に始められること、費用がかからないこと、日常生活に取り入れやすいこと、自己理解が深まることなどのメリットがあります。

思考記録表(コラム法)の活用 については、ネットや書籍で配布されている「コラム法」や「気分記録表」を使うと実践しやすいです。1日の終わりに感情や出来事を記録し、自分の気持ちを整理します。自分の考え方のクセに気づくことが、改善への第一歩となります。

段階的な暴露練習 については、話しやすい人や環境を慎重に選択し、実際に交流することで「そこまで怖くなかった」「顔が赤くなっても、すぐに症状が引いた」という成功体験を増やすことが大切です。例えば、「電話で話す」ことに不安がある場合、最初は家族と短い会話から始め、次に友人、知人へと徐々に難易度を上げていきます。

マインドフルネス は、「今、この瞬間」に意識を向ける瞑想法で、不安やストレスを和らげる効果があります。

生活習慣の改善

規則正しい生活や適度な運動も、症状の改善に役立ちます。十分な睡眠をとること、バランスの良い食事をすること、適度な運動をすること、カフェインやアルコールを控えることなどが重要です。

セルフケアにおける注意点

社交不安障害には自力で改善できる方法もありますが、重症化してしまうと日常生活に支障が出てしまいます。そのため、できるだけ早めに精神科や心療内科での治療を受けましょう。

また、不安が強すぎる場合は、一つ前のステップに戻ったり、さらに小さなステップに分解したりするなど、決して無理をしないことが大切です。

社交不安障害の相談窓口と支援機関

社交不安障害について相談できる窓口や支援機関は複数あります。ここでは、主な相談窓口について解説します。

公的な相談窓口について

精神保健福祉センター は、各都道府県や政令指定都市ごとに設置されています(東京都は3か所)。「こころの健康センター」と呼ばれている場合もあります。こころの健康についての相談、精神科医療についての相談、社会復帰についての相談などを、電話や面接で受けることができます。センターには医師、看護師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師、作業療法士などの専門職がいます。

保健所や保健センター でも相談できます。市区町村役場に電話で問い合わせるか、ホームページで調べることができます。電話相談、来所相談のどちらも可能で、こころの専門医の意見を聞くこともできます。

こころの健康相談統一ダイヤル は、全国共通のダイヤルで、電話をかけると地域の公的な電話相談窓口につながります。相談は無料で、秘密も守られます。

医療機関について

社交不安障害の診断と治療は、精神科、神経科、心療内科等で行います。最近ではメンタルクリニックという名称の医療機関も増えています。

精神科と神経科という名称は、ほとんど同じ意味で使われており、うつ病や統合失調症等、幅広くこころの病気を診察しています。心療内科は内科から分かれて発展した診療科目であり、ストレス等から体に変調をきたした患者さんを診る内科です。社交不安障害も心の不安や恐怖から体に変調をきたす病気ですので、心療内科でも診察しています。

その他の相談窓口

いのちSOS(特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク)、よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)、いのちの電話(一般社団法人 日本いのちの電話連盟)、こころの耳(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)なども相談窓口として利用できます。

まずは最寄りの保健所や保健センター、または精神保健福祉センターに相談されることをおすすめします。医療機関を受診すべきかどうかの判断も含めて、専門家に無料で相談することができます。

当事者の体験から学ぶ社交不安障害との向き合い方

社交不安障害を経験した当事者の体験は、同じ病気に悩む方やその家族にとって大きな参考になります。

発症から治療までの経験

ある当事者の方は、小学校の時はマイペースでしたが、中学時代から自意識過剰が強くなり、授業中に指されると緊張でどもったり、給食の時間も人に食べているところを見られるのが嫌で壁に向かって給食を食べていたりしたそうです。少数の友達や家族とはそれなりに話せたものの、社会人になってから対人恐怖がひどくなりました。

別の当事者の方は、中学入学の頃から症状が現れ始め、「自分はふさわしくない」という思いが常につきまとい、友達になろうと声をかけてくれる同級生に対しても誘いを必死に拒むようになったと述べています。

家族への告白の経験

ある当事者の方は、大学4年のときにとうとう爆発してしまい、そこまで追い詰められて、ようやく親に自分が置かれている状態について泣きながら打ち明けました。

案外子どもはいろいろ考えていますし、思っているより賢いです。だから親に迷惑をかけたくないと思って、自分は苦しい思いをしていても隠そうとすることがあります。

治療と回復の経験

ある当事者の方は、心配した母親に近所の心療内科を勧められ受診しました。医師のアドバイスで上司にも病名を報告し、通院による薬物療法と精神療法が始まりました。

その後、友人の結婚式への出席をきっかけに「もう大丈夫だ」と思えるようになり、営業職として復帰。「もう治らない」「性格だから仕方がない」とあきらめる前に専門家の門を叩くことが大事だと実感したと語っています。

理解を得るために大切なこと

社交不安障害を家族に理解してもらうことは、決して簡単ではありません。しかし、あきらめずに伝え続けることが大切です。

伝え続けることの重要性

一度で理解してもらえなくても、少しずつ説明を重ねることで、家族の理解は深まっていきます。また、専門家の力を借りることも有効です。医師や心理士から家族に説明してもらうことで、より正確な理解を得られることがあります。

あなたは一人ではない

社交不安障害は、10人に1人から2人がかかるとも言われる、決して珍しくない病気です。同じ苦しみを抱えている人は、あなたの周りにもたくさんいます。

治療によって約80%の方が回復するという報告もあります。「もう治らない」「性格だから仕方がない」とあきらめる前に、専門家に相談してください。

家族の方へ伝えたいこと

この記事を読んでいる家族の方へ。社交不安障害の方は、家庭では普通に見えるかもしれませんが、外では想像を絶する苦しみと闘っています。「性格の問題」「気の持ちよう」「怠け」ではありません。脳の機能が関係している、治療可能な病気です。

本人の苦しみを理解し、治療を支えてあげてください。励ましすぎず、本人のペースを尊重し、「あなたを支えます」というメッセージを伝え続けてください。家族の理解とサポートは、回復への大きな力となります。

社交不安障害は、適切な治療とサポートがあれば、必ず良くなる病気です。家族に理解されないつらさは、病気そのものと同じくらい苦しいものかもしれません。しかし、あきらめないでください。この記事で紹介した方法を参考に、少しずつ、自分のペースで、家族への説明を続けてください。そして、一人で抱え込まず、専門家や支援機関の力も借りてください。あなたの周りには、支えてくれる人がきっといます。

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